(真)第2章エピローグ 9月某日◯◯高校生徒会室にて…

 9月某日。月城ミサキと雨宮リサが通う県立〇〇高校の放課後。年に一度の文化祭を6日後に控え、教室棟は活気に満ち溢れていた。


 各クラスの教室内はもちろん、廊下の至るところで作業が行われており、制服姿の男女がひとつの目標へ向かって共に笑い、額に汗を輝かせている。まさに青春の1ページと言える光景だ。


 一方、渡り廊下を挟んで向かいにある特別棟は静かなものである。時おり美術室と家庭科室から笑い声が聞こえるだけで、明かりがついている部屋は数箇所しかない。


 そんな文化祭前の慌ただしさとは無縁な特別棟の一室。ルームプレートに『生徒会室』と書かれた部屋の一番奥で、金髪オールバックのイケメン男子生徒が一人用の机に両肘をついて頭を抱えていた。


「由々しき事態だ……」


 彼の前に置いてある自作の三角札には太文字で『生徒会長!』と書かれている。


 そして部屋には女生徒がもうひとり。艶やかな黒髪を後ろでひとまとめにして、知的なメガネをかけている。いかにも優等生な彼女はノートパソコンのキーボードを弾く手を止めて男子生徒へ顔を向ける。


「どうかされましたか、会長? 文化祭の予算のことでしたら調整すれば問題ないかと」


「違う! そんなことはどうでも……よくはないが、今はこちらの問題の方が深刻だ!」


「と、申しますと?」


が二股されているらしい……」


「ああ、そのことですか……」


 そっけない返事を返した女生徒は興味なさげにパソコン作業を再開させる。


「なんだその返事は! これは大問題だぞ! あんな素直で可憐な少女の恋心を弄ぶようなフシダラな男、生徒会として許すわけにはいかん! 必ず見つけ出して、この僕が直々にケジメをつけさせてやる! そして、真実の愛に目指めたリサくんが僕の胸に飛びこん――」


「気持ち悪いです」


「え?」


「気持ち悪いのでやめてください。そもそも、お相手はこの学校の生徒ではありませんよ。この方です」


 女生徒が自身のスマホを手渡す。


「なぜ君が知っている?」


「副会長という役職柄、校内の情報には隅々までアンテナを張っていますので。まあ、半分は趣味……みたいなところがありますけど」


「で? その情報とやらが僕のところまで届いてないようだが? いったいどうなってい――」


「何か問題でも?」


「え?」


「何か問題でも?」


 真顔で圧に耐えられなくなった男子生徒は目を逸らす。


「よ、よしっ! 我が愛しのリサくんをたぶらかす男の顔を確認しておくとしよう! って、何だ、この写真は……?」


 スマホに目を向けた男子生徒の体がワナワナと震え始める。


「夏休み前にSNSに上がっていた写真みたいです。今は投稿が削除されていますけどね」


「そういうことじゃない! この男の隣にいる『タレ目で胸の大きな女』は誰だと聞いている! 二股の相手は2年の『月城ミサキ』だと聞いているぞ!」


「3人目じゃないでしょうか? その方、顔のわりには随分とおモテになるようですね」


「3人目……だと?」


 男子生徒の眉がピクリと吊り上がる。


「はい。ちなみにその方、文化祭に遊びに来るみたいですよ? 月城さんがクラスで嬉しそうに話してましたから。今度『旦那が来る』って」


「旦那……?」


「お名前は名雲優希なぐもゆうきさん、というそうです」


 ドンッ!!


 男子生徒が握った拳を机に打ちつける。


「覚悟しておけよぉぉ……名雲優希ぃぃぃ……。我が愛しのリサくんをお前のような最低な男には渡さんんん!」


 闘志をむき出しにする男子生徒の姿を見た女生徒は顔を背けて体をプルプルと震わせるのだった。


「で? 四葉よつばはどうした? 予算のことで確認したいことがいくつかあるのだが?」


 男子生徒に質問された女生徒は目元を軽く拭ってから答える。


「ああ、あの子なら帰りましたよ」


「……は? 帰った?」


「軽く部屋の掃除をしたら疲れたみたいで。お腹が空いたから帰る――と」


「は? お腹が空いた……だと?」


「はい。これから『へ行く』と言って、会長が到着する前に部屋を出て行きました」


 バンッ!


「四葉めぇぇ……」


 男子生徒は怒れる手の平を机に叩きつける。


「いくら四葉グループの『社長令嬢』だからといって、何でも許されると思うなよぉぉ……。今度会ったら、この僕が直々に集団生活とは何たるかを教えて――」


「やめておいた方がいいですよ?」


「は? なぜだ?」


「そんなことをしたら彼女のSPかもしれません」


「え、SP……?」


「知りませんか? 四葉さんに告白しようとした男子生徒が全員『保健室送り』になっているのを」


「い、いや……? 初耳だが……?」


「男子生徒たちの話によれば、告白の言葉を口にしようとした瞬間、急に意識がなくなったとか。次に気づいた時には全員ベッドの上だったらしいです。まどろみの中、黒いスーツ姿の女性を見た気がすると証言した生徒もちらほら……」


「何かの間違いだろ……? いくらなんでも普通の県立高校で、そんな突拍子もない出来事が起こるわけ……。いや、四葉グループならあり得るか……」


「はい。四葉グループですからね」


「ま、まあ、四葉は少々マイペースなところはあるが、頼んだ仕事はきっちりこなしてくれているし、今回は大目に見るとしよう……」


「懸命な判断かと」


「にしても、あれだけ整った容姿をしているのに浮ついた話をいっさい聞いたことがなかったのはSPとやらのせいか。もしかして、決められた相手がいるのか?」


「さあ? そこまでは」


「そうか……。いったい、どんな男と付き合うんだろうなー」


「どんな男性と付き合うんでしょうねー」


 2人が暗くなりつつある窓の外を眺めて思いを巡らせていた頃……。


 同市内某所にて――



「えっ……」


 オートロック付きの単身者向けマンションの3階廊下で、オッサンこと名雲優希はビジネスバッグとエコバッグ片手に固まっていた。


「ギャルがいる……」


 自宅の扉の前に制服ミニスカート姿の『見知らぬギャル』が座っていたのである。


 ホワイトブロンドのゆるふわロングヘアーのギャルは両手両足をダランと投げ出し、虚な目をして「あぁぁ……」と掠れた声を出している。


 優希は少々戸惑いながらも、ギャルに近づいて声をかける。


「あのぉ……大丈夫ですか?」


「あぁ……?」


 口と瞳を半開きにしたギャルと優希の目が合う。そして優希は気づく。


「えっ、デッカ……」


 彼女が白いスクールシャツをパッツパツにしてしまうほど、巨乳であることに。


「あぁー……?」


「っと、すみませんっ!?」


 優希は慌てて深い谷間から顔を逸らす。


「って、ん? 今のスカートの柄って……?」


 ギャルが履いている制服スカートに見覚えがあった優希は彼女に尋ねる。


「あの? もしかして〇〇高校の生徒――」


「おなか空いた……」


「え? あっ、ちょっと!?」


 ギャルが優希の足に抱きつく。


「ごはん食べさせて……」


「えっ、ご飯?」


「そう……。がね……。ここに来れば、おいしいごはんがたんさん食べられるって言った……」


「ミ、ミーちゃん?」


「お友達のミーちゃん……。とっても可愛い……」


「えっ、ドユコトおおおおおおお――ッ!?」


 静かなマンションの廊下に優希の声が響いたのだった――


 新たなギャルとの出会い。そして、高校生活最大のイベント『文化祭』の幕が開く。




――――――――――――――――――――

(あとがき)

ヒロイン全員ギャルでいくことにしました。

3章終わりまで続けて投稿するつもりです。

ギャル特化で繰り広げられるドタバタをお楽しみいただければと思います。

3章もどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る