プロ失格

エリー.ファー

プロ失格

「諦めなさい。あなたが戦えるような場所ではありません」

 私は一人、路地裏で泣いていた。

 バショウ戦で負けてしまったのは、分かる。

 しかし、あそこまで言われるほどの負け方ではなかったはずだ。

 説教をされ、叱られ、怒られ、泣いてしまった。

 つまらない時間が積み重なって、私を創り上げたことは言うまでもないが、それが続くと思うと絶望的である。

 言葉同士の飛びを繋ぎ合わせて、現在の立ち位置を探っているうちに、今の自分に絶望すること数回。

 私はプロを名乗るようになって。

 そして。

 プロを名乗るべきではない、との言葉を投げつけられた。




 そんな夢を見た。

 私は何のプロにもなっていない。

 本当に、夢というのは厄介である。

 夢を見ている時というのは本当に、夢の中に自分という存在がいて、現実に肩まで浸かっているように感じてしまうものだ。

 まさに、麻薬。

 いや、幻覚薬。

 いやいや、どちらも同じか。

 



 またも、夢だった。

 プロの定義について考えている内に、自分の中の悪魔に食い殺されて、クラシックを聴きながら目が覚める。

 まるで詩的な人生だ。

 いつからだろう。

 私がプロについて考えるようになったのは。

 いつからだろうか。

 私がプロになったのは。

 いつからだったら満足なのだろうか。

 大衆は。

 そう、とにかく大衆のために生きていくしかない。

 一番、納得してもらいやすい努力と苦労人エピソードを揃えておく必要がある。

 痣と頭痛と皮膚炎と虫歯。

 他にも色々。

 いまや、他人の苦労はエンターテイメントだ。逆に言えば、それ以外はエンターテイメントとして不十分ということになる。

 吐き出された言葉によって生み出された、自分の中だけで有効な計算方式。歪な発想でなければたどり着けなかった、音と音との間で魅せる手紙の香りが脳を焼いて、焦げ付かせる。

 意味を求めるが余り、大衆との距離を間違える。

 私が好きな大衆と、私の好きな大衆と、私が好きな私と、大衆が好きな大衆には違いがある。

 元々、私の中には何もなかったのだ。

 きっと。

 これもまた。

 私の夢であり。

 誰かが望んでいる夢そのものなのだ。




 私は夢を見ている。

 そんな気がする。

 夢を見るように生きている。

 それが一番正しいのかもしれない。

 希望に溢れている、というわけではない。諦めで満たした水槽の中で心地よく溺死しているだけだ。

 もしかして。

 そう、そういうことなのかもしれない。

 あぁ。気が付いた。

 私は覚醒した。

 もう、迷うことはないだろう。

 そういう、エンターテイメントを作り出すだろう。

 もっと笑って、もっと泣いて、もっと走る。

 私はきっと目覚めるはずだ。




 プロとして失格だと言われた。

 近くの焼き鳥屋で好きなだけつくねを食べた。

 チーズを揚げたものが出て来た。注文していない、と店員に話すと、店長からのサービスだと言われた。

 私は自分を見失いそうになる度に、ここに来て、自分を取り戻している。




 私は目を覚ました。

 長い長い夢だった。

 焼き鳥が一番嫌いな私である。

 口の中に風味が残っているような気がして、トイレで吐いた。

 どこまでが本音なのだろうか。

 これもまた、大衆用の本音なのか。

 いや。

 大衆のために生きてこそのプロではないか。

 でも。

 私はとっくの昔に。




 全部、夢であった。

 これから先も夢であった。

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