ノワール軍閥
ノワール軍閥は、シャーム星域を拠点に活動する銀河帝国軍第十七艦隊を中心とした軍閥である。
第十七艦隊司令官アンドレス・ノワール上級大将は、早くから帝位に就いたユリアヌスに反発して兵を挙げるも、周辺勢力との戦いに時間を費やし過ぎたために、ルクスに先を越されてしまった。
「まったく。ユリアヌスの奴も存外不甲斐ない。あんな若造にあっさりと帝位を奪われてしまうとは」
恰幅の良い体型に、髪一つ無い禿げ頭をした老将ノワール提督がやけ酒を飲みながらぼやく。
「提督、お酒はそろそろ控えて下さい。我等にはゆとりが無いのですぞ」
そう言って上官を注意するのは、第十七艦隊参謀長を務めているフランシェ中将である。
ノワールとは真逆に長めの髪に痩せ型の体型をした男性だった。
ノワールよりも一回り若いが、その知略はノワール軍閥で最も長けていると言われる。
ノワール軍閥がここまで勢力を拡大できたのも彼の頭脳によるところが大きい。
「分かっている。だが、これが飲まずにいられるか?」
「お気持ちは分かりますが、周辺勢力はこの機会に勢い付いています。インペリウムでは奴等を帝国を守護する官軍だと讃えて支援の手まで伸ばしているとか」
「官軍だと? では我等は帝国に歯向かう賊軍か!? 一体いつから帝国はセウェルスタークの若造の玩具と成り下がったのか!?」
声を荒げながら、ノワールは手に持っているグラスを投げ捨てた。
「この事態を打開するためにも今すぐに手を打たねばなりません。セウェルスタークめを亡き者にしてしまえば、まだ再起はいくらでも図れます」
「亡き者と簡単に言うが、一体どうするつもりだ? まさか遠く離れたインペリウムまで暗殺者を送るとでも? 馬鹿馬鹿しい」
「その必要はありません。セウェルスタークにはこちらまで来てもらえば良い」
「来てもらうだと? 奴を煽り倒して引きずり出すというのか?」
「はい。既に手筈は整えております」
フランシェがそう言うと、ノワールの手前には立体映像のテレビ通信画面が表示された。
そこに映し出されていたのは、元近衛艦隊司令官オルガ・ヴァリルーシ大将だった。
「お久しぶりです、ノワール提督」
「これはこれはヴァリルーシ提督。本当に久しぶりですな。近衛艦隊は解散させられたと聞きましたが、ご壮健の様子で何よりです」
近衛艦隊が解散させられた事をヴァリルーシが根に持っている事を、ノワールは容易に予想できた。
だからこそ彼がこれから何を求めてくるかは、すぐにも察しがついた。
「ふん。何も問題無ければこうして連絡などせんさ」
「では早速、用件を窺いましょう」
「私には元老院に多くの友人がいる。その友人達に掛け合って、あなたに帝位を授ける事もできなくもない」
「帝位を授けるとは大きく出ましたな。しかし如何に元老院議員と言っても、帝位を授けるとなると、一人や二人ではどうにもなりますまい。元老院の総意でなければ、帝位を僭称しているのと変わらん」
「しかし勝手に名乗るのと、元老院に味方がいるのとでは話が違いましょう」
ヴァリルーシに続くように、フランシェが口を開いた。
「既にユリアヌス軍閥の残存戦力の一部は、提督の即位を認めております。現在、我等に合流すべくこちらへ向かっております。彼等の戦力と帝位があれば、目障りな周辺勢力も我等になびきましょう」
ノワールは、ヴァリルーシとフランシェを交互に見て、二人が既に事を示し合わせている事を理解した。
そしてヴァリルーシは、こうして通信を繋いでいるだけでもそれなりに危ない橋を渡っている。
もし仮にこの提案を拒否した場合、どのような手段に出るかを予想するだけでも背筋が凍る思いをノワールはせずにはいられなかった。
「一つ尋ねても良いでしょうか、ヴァリルーシ大将」
「何でしょうか?」
「あなたが求めるものです。このような大それた事を無償で行なうはずがありません。一体目的は何ですか?」
「近衛艦隊の再建。そして帝国全土を平定する事。この二点のみです」
「……分かりました。あなたのプランに乗らせて頂きましょう」
こうしてセウェルスターク軍閥に対抗するために、ノワール軍閥が更なる発展を遂げるための策謀が動き出すこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます