のじゃロリと行く異世界の旅――最強魔導皇帝の力で、何が来ても余裕です!?――
Tacopachi
第1話 のじゃロリ様と異世界へ
「目覚めよ……」
「んんん」
閉じた瞼の向こうで幼い子供の声が聞こえる。俺は肌寒さを覚えつつ、その声に背を向け身体を丸めた。
「目覚めよ……」
「いや今日休みだから」
「よいから目覚めよ……」
「でも……」
「さっさと起きんか!」
「だあぁ!?」
耳元で怒鳴りつけられ、俺の身体は文字通り跳び上がった。思わず目が開き、包まっていた毛布どころか何も着ていないことに気が付く。そして1人の、不機嫌そうな幼女が視界に入った。光を散らすピンクのスモックを着た彼女の長い髪は銀そのものが流れるようであり、瞳は薄紫。真っ白な肌といい、整った気の強そうな顔立ちといい、芸能界で子役をやっていたら濃いファンがつきそうな容姿だ。
「は? え、な、何? 女の子!? どうなってんの!? 何処ここ!?」
「女の子!? 不敬であろう! この光輪が目に入らぬか!」
平坦な胸を反らした幼女が、ふんっと鼻を鳴らして自身の頭上を示す。ぼんやり輝く2つの同心円が、外側と内側でそれぞれ逆方向に回転していた。輪と輪の内側で時折紫色の火花が散り、銀髪に反射する。
「綺麗ですね」
「であろう? 聞け! わしはエリファルテス! 欲望の女神である!」
「はぁ、どうも」
「ところで、そちは死んだぞ」
「えぇ!?」
起き抜けでぼんやりしつつも、股間を隠して幼女と話していた俺は、いきなりの宣告に素っ頓狂な叫び声を上げた。2つのことに驚いた。いきなり見知らぬ子供に「死んだ」と言われたこと。そして、その言葉を自分が信じたこと。素っ裸で眠っていた所を幼女にたたき起こされるなんて明らかに夢な筈だが、妙な現実味を感じる。
辺りを見回した。視界が効くのは10メートルほどで、そこから先は濃い霧に覆われている。床はどうかと目を落とせば、こちらもドライアイスでも敷いたのかと思うくらいの白いもやが立ち込めていた。
「死んだ……俺が? いつ? どうやって?」
「それはわしの関知するところではない。日々生きて死ぬのが人の子であろう」
「そりゃそうでしょうけど、でも……あれ?」
俺は股間を左手で隠し続けつつ、右手を頭にやった。何だか、色々覚えていない。最後の記憶によると、ベッドに入ったのは間違いない。じゃあ、その前は?エリファルテスから視線を外して霧に目をやる。家族はどうしていた? 今日は休みと自分で言ったのは覚えているけど、俺は何の仕事をしてたんだ?
「しかしな、アキラ」
「アキラ?」
「ん? そちの名じゃ。人の子、アキラ。そうじゃろ?」
きょとんとした幼女に言われ、俺は彼女の瞳を見つめて首を捻った。俺、アキラっていうんだっけ?……ああ、そうだ。俺アキラだった。でも、何アキラなんだ? 名字はどうしたっけ?
「悲しむことはないぞ、アキラ。そちの未来は明るい!」
「……死んだのに?」
「うむ。そちは第二の命を授かるのじゃ!その意識を保ったまま、新たな肉体を得る!」
「第二の命……」
「うむ! 異世界でな」
「異世界……って、どこですか?」
俺がそう訊ねると、エリファルテスは薄紫の視線を彷徨わせた。気まずい沈黙の後、幼女が両手の人差し指の先を触れ合わせつつ口を尖らせる。
「無論、こことは異なる世界じゃ。異世界じゃからな」
「ここって霧しか見えないですけど、ここと違うって言われてもピンと来なくって」
「それはその、わしも良く知らな」
言葉を切ったエリファルテスが上目づかいでこっちを見た。俺も彼女を見返して小さくかぶりを振る。数秒後、頬を膨らませた幼女が地団太を踏み、光輪から火花が散った。
「異世界といったら異世界なのじゃ!」
「わ、分かりました」
「それでな? そちはその世界で最高の肉体を得るのじゃ!」
「最高の肉体を!? 一体どんな」
「最高の! 肉体!」
「あっはい」
胸の前で拳を握るエリファルテスに、俺はただ頷いた。この子、あんまり知らないんだな。自分がやろうとしてることなのに。幼女だから仕方ないか。
「わしが頑張ったからじゃぞ! 感謝をせい!」
「有難うございます」
「うむ! 次は褒めよ!」
「流石です、女神エリファルテス様」
「うむっ」
腰に手をやり胸を張る幼女。相手の名前を噛まずに言えたことにほっとしていると、エリファルテスが勝ち誇った笑みを浮かべた。
「異世界でのそちは正に向かうところ敵なし。されど時には限りがある。今のうちに望みを考えておくとよいぞ」
「望みですか」
「うむ! わしは欲望の女神であり、そちはわしの、最初の信徒。あらゆる望みに耳を傾け、受け入れようぞ」
「俺、信徒だったんだ。うーん」
背伸びして俺の顔を見つめる幼女。期待に満ちた表情を見つめ返しながら考え込む。曖昧な記憶を掘り起こし、自分がこれまでどんな人間だったかを思い返した。
「ええと、昔の俺はただ生きることに必死で、仕事以外やる余裕がなかった気がするんですよ。朝早くから働いて、帰った時には疲れ過ぎて目を開けるのも辛かった」
「大変じゃったのう」
「はい。だからその異世界?では、せっかく無敵の力が手に入るんだし、出来るだけ割の良い仕事をこなして自由時間を確保しつつ、お金持ちになりたいですね。それで、女の子にモテたい」
「大儲けしてお嫁さんを探すのじゃな? よいぞ!」
目を文字通り輝かせたエリファルテスが、はしゃぎつつ手を叩く。
「結婚ですか? そこまで考えてなかったな。とにかく美人だったり可愛かったりする女の子たちにチヤホヤされたいんですよ。……こういうのって、ダメですかね?」
「駄目な願いなどあるものか! よいぞ!」
「やった!」
「うむ! では、ゆくか? 異世界!」
「はい!」
幼女の小さな手が差し伸べられ、薄く浮き出た血管と爪が激しく発光する。俺がその手を取った瞬間、辺りを覆っていた霧が一斉に押し寄せ、視界を埋め尽くした。
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