第18話 2人の秘密 ②
今ので5本連続か。
バッシュがこすれ、ボールが床を叩き、ネットが揺れる。
キュ、バン、スパッと心地の良い音がリズムよく無人の体育館でこだまする。
他にも大勢人がいると思っていたが、以外にも体育館は貸し切り状態だ。
春野は目の前に落ちてきたボールをウェッショーに向かって投げ返した。
ボール拾いと言われ、勝手にあちこち走りまわされるのかと思っていたが、まだバックボードの真下から一歩も動いていない。
これは楽でいい。
「いいぞ、この調子」
ウェッショーと正対する彼の父親が励ましの言葉を投げかけている。
最初にウェッショーが説明してくれた「親父がチェックについてくれる」というのは、どうやらディフェンスの事だったらしい。
先ほどから、ウェッショーだけがボールを持ってプレイしている。
息子にシュートを打たせまいと、必死に動き回って邪魔をする彼の父親の姿を見て、改めていい父親を持ったなと心から思った。
しかしウェッショーは、彼の献身をあざ笑うかのように上からポンポン決めている。
これで7本連続。
再び目の前にボールが落ちてきた。
「ちょっと待って……。少し休憩……」
春野がボールを投げ返そうとしたところ、ウェッショーの父親が制した。
彼がもう若くはないという理由もあると思うが、息つく間もなく連続でウェッショーを相手にするのは相当体力を消耗するらしい。
両ひざに手をついている彼は、大量の汗を流し激しく息切れを起こしている。
「じゃあ、休憩の間うちもやっていい?」
中腰のウェッショーがうなずくのを見て、春野は慣れない手つきでボールを突きながら父親と入れ替わりでコートに入った。
「てかさ、見てたけど、後ろのに飛んでディフェンスから離れて打つのずるくない? そんなん、シュート決めるの簡単じゃん」
「じゃあやってみぃ。俺が相手してやるから」
「こんなの絶対決めれるって。どっからスタート?」
ウェッショーは春野の舐めた態度にあきれを通り越して、笑いが出た。
スリーポイントラインから少し離れた場所を指定し、2人は正対する。
「あれ、お前ほんとにここから打ってた?」
「ああ」
「意外と遠い」
「体育のバスケでスリー打ったことないのか? いいよ始めて」
ウェッショーは少し距離を取って、春野の動きを注意深く観察する。
ぎこちないドリブルを数回行い、両手でボールを掴んだ春野はステップバックしシュートを放った。
ウェッショーはブロックに入ろうとも、ボールの行方を目で追うこともせずに両手をグルグル回している。
バスケット経験皆無の春野がそう簡単にスリーポイントを決められるわけもなく、リングにすらかすらない。
「トラベリング」
「え?」と春野が困惑し、その一部始終を見ていたウェッショーの父親が後ろで笑い声をあげている。
「ルール違反。入っても無得点」
「はぁ? お前とおんなじことしてるのに」
「いいよ、覚えようとしなくて」
「思ってたよりむずいっていうか、あれ、お前もしかして、凄いことしてる?」
額に手を当てたウェッショーはあきれた様子で首を縦に振った。
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