悪役豚皇子に転生した俺は分からせ待ち極悪王女と結婚しますっ!

ナガワ ヒイロ

第1話 悪役皇子、前世を思い出す






「お、おやめください、アルフェン皇子」


「ぶひひ、よいではないか〜!!」



 城勤めのメイドのお尻を撫で回すように触る。


 しかし、メイドが僕に逆らうような真似は絶対にできない。


 何故なら僕は皇子だから!!


 僕の名前はアルフェン・ド・エルリヴァーレ。

 エルリヴァーレ帝国の第一皇子であり、未来の皇帝!!


 ちなみに僕には兄も弟もいない。


 姉と妹が一人ずついるが、どちらも側室の娘だから帝位継承権を持っていないのだ。


 つまり、誰も僕に逆らえない!!



「アルフェン殿下」


「ぶ、ぶひっ!? フィ、フィオナ……」


「お勉強の時間に何をしているかと思えば、まったく」



 でも僕には逆らえない相手が一人いる。


 僕の専属メイドであり、教育係であり、剣と魔法の先生。


 それがこのフィオナという女だ。


 一見すると、銀髪ポニーテールと真紅色の瞳を持った絶世の美女である。

 ちなみに歩くだけでぶるんぶるん揺れる胸をお持ちだ。


 父上が用意した僕の教育係候補の中で一番顔と容姿が良かったから選んだのだが……。


 これが大失敗だった。


 このフィオナというメイド、元冒険者だからか、僕の権力にちっとも物怖じしないのだ。



「さあ、勉強のお時間です」


「や、やだぞ!! 僕はこれからメイドのお尻を触りながらおやつを食べる時間なんだ!!」


「なんて最低な時間の過ごし方……。そのように怠惰な過ごし方をしているから、ぶくぶく太ってしまうのですよ」


「う、うるさい!! お前には僕のこのお腹の良さを理解できないだけだろ、ぶひひ!!」



 ああ、認めるとも。僕は太っている。


 でもこのお腹の贅肉のお陰で転んでも大した怪我をしないのだ。


 ついでに水に浮くから溺れる心配も無い!!



「この前、そのお腹で足元が見えず、階段を転がり落ちたではありませんか」


「ぶ、ぶひひ、それは忘れろ」


「アルフェン殿下、貴方はもう十歳になるのです。そろそろ次期皇帝としての自覚をお持ちくださいませ。具体的には真面目にお勉強と鍛錬を」


「断る!! あ、ぶひひひ。フィオナがおっぱい揉ませてくれるなら勉強しても――へぶひっ!?」



 刹那、僕の脳天に激痛が走る。


 見えなかったけど、多分フィオナの神速チョップだろう。痛い。



「これ以上叩かれたくなかったら、勉強してくださいませ」


「うぅ、わ、分かった……。隙あり!!」


「むっ」


「ぶひひ!! 油断したな、フィオナ!!」



 僕は背後からフィオナの胸を揉みしだいた。


 むほー!! 柔らかい!! ふわふわ、ふにふにの感触が堪らん!!



「ふん!!」


「へぶふっ!?」


「……おや。失礼、少し本気で殴り過ぎてしまいました」



 フィオナからのカウンターを受け、僕はその場に転倒してしまう。


 ぐぬぬ、ぼ、僕が皇帝になったら絶対に恨みを晴らしてやる!!



「早くお立ちくださいませ」


「ぶひ、わ、分かって……あぇ……?」


「アルフェン殿下?」



 立ち上がろうとしても、立てない。妙にふらふらして、気持ち悪い。



「うっ、うぅ、な、なんだ、これ?」


「アルフェン殿下? そ、それほど強くは叩いていないのですが?」



 いつもクールで表情をピクリとも変えないフィオナが珍しく焦った様子を見せる。


 まあ、そりゃあ、自分が叩いた直後に相手がふらふらし始めたらビビるよね。


 なんて呑気なことを考えながら、僕はお昼に食べたものを全て吐き出す。



「おぇっ」


「お、お気を確かに!! 急いで治癒師を呼びます!!」


「ち、違う、なんか、これ、頭の中を直接掻き混ぜられてるみたいな……うぅ」


「殿下、アルフェン殿下!!」



 一瞬だけ意識が完全に落ちる。


 しかし、それは本当に一瞬の出来事だった。すぐに気持ち悪さは無くなった。



「だ、大丈夫だ、フィオナ。僕は、は、平気だから」


「本当ですか? たしかに、顔色は先程よりもは幾分か良くなっておりますが……」


「うん。本当に大丈――」



 少し体調が良くなって油断した、その一瞬。


 想像を絶する大量の情報が、一瞬で頭の中に入ってきた。


 全身が痺れたように動かなかった。


 まるで人一人分の人生を一瞬で体験したかのような、いや、違う。


 これは記憶だ。忘れていた俺の記憶。



「そうだ、思い出した」


「アルフェン殿下?」



 僕は、俺は思い出した。


 平和な日本という国で生まれ育った男の、自分の記憶を全て。


 いわゆる前世の記憶って奴だろう。



「転生って奴だよな。しかも……」



 俺は理解する。


 この世界が、前世の俺が死ぬ直前までプレイしていた『ヒロインクエスト』の世界であることを。


 『ヒロインクエスト』は大人向けのロールプレイングゲームだ。


 主人公は究極のハーレムを作るために世界中を旅しており、お姫様や女騎士、町娘をナンパしてハーレムに加え、ついでに魔王を倒す。


 それだけ聞くとバカゲーみたいだが……。


 有名な絵師や豪華声優を多数採用したことで、神エロゲと呼ばれるに至った代物だ。


 いや、まあ、それはこの際いい。



「アルフェン・ド・エルリヴァーレって言ったら、あの豚皇子じゃねーか!!」



 俺が転生したアルフェン・ド・エルリヴァーレもゲームに登場している。


 悪役の豚皇子としてだがな!!


 と言っても、一般的な悪役とは少し違うかも知れない。

 好色家で醜く肥え太った豚皇子だが、統治者としての技量は悪くないからな。


 まあ、面倒なところを全部有能な部下に任せて自分は怠惰に過ごしているだけだが……。


 では何故アルフェンが悪役なのか。


 その答えは、主人公が死亡してしまった際に起こるイベントが関係している。


 まず死亡した主人公は、アルフェンの住む城で生き返るのだ。


 ここまでは良い。


 しかし、目を覚ました主人公の周りには世界各地で集めた大切なハーレムメンバーの姿がどこにも無かった。

 そこで主人公がしばらく城を探索していると、やがて豚皇子の部屋に辿り着くのだ。


 その部屋で主人公が目撃したのは、豚皇子に抱かれているヒロインたちの姿だった。


 突然の寝取られ展開。

 そう、『ヒロインクエスト』はプレイヤーの脳を破壊してくるのだ。


 ちなみにここでヒロインの主人公に対する好感度が低いと更にイベントが発生する。


 ヒロインたちは最初こそ見た目が最悪な豚皇子を嫌がっているが、女の悦ばせ方を分かっている彼にメロメロになってしまう。


 そして、ヒロインたちは揃いも揃って主人公を捨てるのだ。


 ヒロインからの好感度が最低値だと、主人公を処刑するようヒロインたちが言い始めたりするから結構キツイ展開もある。


 まあ、主人公がストーリーを順当に進めてヒロインを100人集めたら、鬱展開は欠片も無い。

 あ、でもシナリオの最後の描写が苦手な人はいるかも知れないな。


 『ヒロインクエスト』の最後。


 それは全ての黒幕であるエルリヴァーレ帝国のお隣さん、アズルクォーツ王国のお姫様の最後でもある。


 復活した魔王を倒し、真の黒幕がお姫様であると知った彼は、お姫様を断罪するのだ。


 魔王を復活させたとか、諸々の罪でね。


 一応、戦闘もあるが、魔王を倒した主人公たちには敵うはずもなく、お姫様は捕まってアルフェンの下に連れて来られるのだ。


 エルリヴァーレ帝国は主人公の故郷であり、大陸最大の国家。


 魔王に最も苦しめられた国でもあるため、アズルクォーツ王国はお姫様の処遇をエルリヴァーレに一任したって感じだな。


 そして、そのお姫様を引き取って、無理やり妻にし、毎夜犯し尽くすのがアルフェンだ。


 今まで裏であくどいことをやっていたお姫様が泣き叫びながら「やめて」と懇願する姿は、多くの紳士たちを興奮させたことだろう。


 俺も大変お世話になった。……じゃない!!


 よりによって、あの豚皇子に転生するとかマジかよー!!



「あ、いや、でも転生先としては悪くないか?」



 アルフェンにはこの手の転生にありがちな破滅ルートが存在しない。


 主人公の集めたヒロインを寝取るか、お姫様を犯すかの二択しか無いのだ。



「あれ? 最高じゃん」



 でも、そうだな。よし、決めたぞ。


 俺はこのまま皇子として過ごし、シナリオ通りに動こうと思う。


 そして、主人公を資金面などで手助けする。


 ああ、たしかに主人公が負けたら俺はヒロインたちを横取りしてハーレムライフをエンジョイすることができるだろう。


 しかし、俺はハーレムなどどうでもいい。


 いや、まあ、俺も男だから少なからずそういう願望はあるが、それは二の次だ。



「推しが、手に入る!! ぶひっ、ぶひひひ」



 俺はお姫様を推している。


 というか、最後の泣き叫びながら分からせられる彼女を見て好きになる紳士は多かっただろう。


 その彼女が手に入るなら、主人公を手助けしてやりたくもなる。


 でも、俺は無理矢理というのが好きではない。


 ゲームのワンシーンとして見るなら良いものだが、自分がやるとなると、少し良心の呵責というものが湧いてくる。


 というのも、お姫様も色々と可哀想な過去を背負っているからな。


 なので俺なりの分からせ方をしてやろう、くっくっくっ。



「アルフェン殿下? 大丈夫ですか?」


「え? あ、うん。大丈夫大丈夫」



 いけないいけない。


 前世の記憶を取り戻したせいでブツブツと独り言を言ってしまった。


 取り敢えず、主人公がお姫様を帝国に連れて来るまで普通に皇子生活を満喫していようかな。


 そう思って立ち上がろうとした、その時。



「いでっ!!」



 お腹周りの肉が邪魔で倒れてしまった。


 ……駄目だ。これは駄目だな。



「フィオナ!!」


「っ、はっ」


「俺は、俺は痩せるぞ!!」


「はっ!! ……は?」



 この贅肉は流石にやばい。


 推しが最終的に手に入るとしても、容姿が理由で彼女に嫌われたくはない。


 まずは痩せてこの醜悪な外見をどうにかしようそうしよう。





――――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話

動きにくくなるという理由でフィオナは下着を付けていない。


「面白そう」「続きが気になる」「どうでもいいけどどうでもよくない話さんくす」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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