「反ガムボールマシン」のうた


  「反ガムボールマシン」のうた


ある日、お菓子屋のショーウィンドウを覗いてみたら

そこにヤツは佇んでたんだ。

まあるい大きなガラスの頭に

赤毛を思わせる、つるりと輝く頭。

それに不釣り合いなほど不気味な細い体。

脳みその代わりに詰まった多彩なガムボール。

今思えば、この世で一番嫌いな外見だよ。


アイツは1コインでレバーを回してガム一個 って

意味不明な商売をしてた。

だってそうでしょ。

なんでこっちが回さなきゃなんないんだ。

商品くらい自分で渡せよ。

それにあんなまずいガムに1コインなんて屈辱的だって

未だに思ってる。


それで嫌だったんだけど

周りに押されたから

仕方なく回すことにした。

1コイン入れて、グルっと回す。

返事がなかった。

アイツは1コインをパクったんだ。


腹が立ったから、思いっきりドデカい頭を殴った。

そしたら、ポーンとマヌケな音がして

やった、後ろに倒れたと思った。

でも、ヤツはすぐに立て直して、

今度は前方に倒れて、ゴツンとぶつかって来た。

涙目になりながら、頭を押さえてうずくまった。


もうどうなっても知るか、と思いながら

家に帰って、工具箱を取ってきた。

再起不能になるまでバラバラにしてやろうと思った。

ネジを一本ずつ緩めてった。

するとその度に、ヤツはガムボールを吐き出した。

クルル カラン クルクル カララン

一個ずつ増えてった。

そのうちヤツは耐えきれなくなったのかバタンと倒れた。

勝利を確信して、ドライバーを持ったままそれを見下ろした。

ヤツの赤い頭頂は取れ、カラフルな脳みそが流れ出していた。

ただ、不思議なことにそれでもアイツの頭の中は減ってないように見えた。

それどころか、アイツは「自分で」レバー回してガムを出し続けた。

ガタガタと床で痙攣し続けていた。

白黒の床で痙攣し続けていた。

それが怖くなったから、

お菓子屋を飛び出した。

こわれたガムボールマシンと工具箱を置き去りに。


道すがら考えた。

今日の出来事を死ぬまで引きずるんだろうと

自分はおかしなガムボールマシンにすら勝てないんだ

どんなときになってもアイツがぶちまけたカラフルな脳みそがちらつくんだ。

初めてのキスの時も

部活の大会の時も

バイト先のスーパーでも

結婚式のケーキ入刀の時も。

やりきれなかった。だから叫んだ。

ありったけの声で叫んだ。ありったけの地団駄を踏んだ。

傍を通った改造車に全てかき消された。


だから反ガムボールマシンの立場を取ってるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る