第55話 大森林の聖域

「聖域に行きたいわ」


家族全員揃っての夕食中、明日は何をしようかと話していた時にディーナがそんな事を言い出した。


「聖女様は聖域がどのような場所かご存知ですか?」

「もちろんよ。少なくともこの場にいる誰よりも詳しいと思うわ」

「…なるほど。ご案内したいところではありますが、生憎と魔獣が活性化しておりまして…」

「問題ないわ、これは女神様の思召しなの」

「左様ですか…それならば、明日聖域へご案内致します。ただ、我らも聖域には入れませんので手前までにはなりますが」

「構わないわ」


そんな感じで聖域行きが決定し、両親は各方面へ指示を出す為に退席。就寝まではまだ時間もあるし、俺とティアは兄達と共にサロンで過ごす事にした。


「改めまして、領地へようこそ。聖女様とお会いできて光栄です。私は長男のアルフレート・クラーク・フォーサイス。王宮文官をしております」

「…私は次男でディオニス・ヴァル・フォーサイス。15歳で王立学院騎士科に在籍しております」

「三男のエルドナーシュ・ゼン・フォーサイス、11歳…です」

「四男のジョシュア・テオ・フォーサイス 同じく11歳です。はじめまして、聖女様」


兄達が礼儀正しく挨拶をする。妹の俺が言うのも何なんだが、やっぱり皆イケメンなんだよなぁ~。


「皆様にお会いできて嬉しいわ。大切なお友達のお兄様達なんですもの、そんなにかしこまらないで貰えると嬉しいのだけど」


ディーナが悠然と微笑む。流石、愛の女神なだけあってその佇まいは聖女そのものだ。心なしか、次兄を除く兄達の顔がデレッとしているのは気に食わないけれど…


「そういえば、何でまた聖域に行くだなんて言い出したの?」


行くならコッソリ行けば良いのに、何でわざわざ家族を巻き込んだのか。ちょっと疑問だったんだよね。


「あら、言ってなかったかしら?私も神託を受け取れるのだけど、夕食前に貴女を連れて聖域へ向かうようにって言われたのよ」

「そうなんだ?」

「それと、コ…教皇から『何かする場合はちゃんとご家族の許可を得るように』って言い含められててね」

「あはは、そうなんだ」

「も〜ほんと、口煩いのよ?『そのような格好はなりません!』ってこーーんな顔するの!」


そう言いながらディーナが変顔をする。


「…ぷっ、あははははは!!変顔…っ、やめ…っ、あははははは!!」

「せ、聖女様…っ、ぷはっ」

「こ、こら、アーシェ…そんな、笑っては…ふふっ、失礼だろ…っ」

「ぶふっ」

「はははっ、聖女様って面白いヒトなんだな」

「あら、そんなに面白かったかしら?」

「も〜、その顔はズルい!」


兄達の緊張もすっかりほぐれ、その後は互いの近況等を報告しあって解散となった。長男はともかく、他の兄達とも学院内では顔を合わせないからね。


「ふわぁぁ〜」


久しぶりに家のベッドで寝たけど、やっぱ家は良いね。大きく伸びをしてから仕度に取り掛かる。今日は森の中を歩くので動きやすく耐久性に優れた騎士服を着る。


この服は布にデモンスパイダーキングの糸が使われていてかなり丈夫なもの。普通の剣なら傷もつけられないので魔獣に襲われても安心だ。ディーナ用の服も同じ素材で作ってあるが、あちらは聖女衣装に手を加えたもの。


教会の意匠があしらわれたチュニックワンピを腰布で縛って、生成りのパンツと黒革のブーツ。その上から白のローブを羽織った姿はRPGに出てくる神官か賢者みたいだ。


ディーナの部屋をノックすると、程なくして部屋のドアが開いた。


「おはよう、アーシェ。今日は騎士服なのね?似合ってるわ」

「おはよう。ディーナも凄く似合ってるよ」

「うふふ、ありがと。それにしても、この服凄いわね。とても軽いし肌触りも良いわ」

「そうでしょ?」


そんな会話をしつつ食堂へ向かうと、すでに両親と兄達が揃っていた。


「あれ、ディオ兄様も行くんですか?」


アル兄、エルド兄、ジョシュ兄はラフな格好だが、ディオ兄は騎士服を着ている。


「俺はお前達の護衛役だ」

「ディオも成人だし、そろそろ聖域へ連れて行かねばと思っていたからな」

「そうなのですね。ディオ兄様と一緒なら安心です」


聖域までは母率いる妖精の騎士団が同行するようだ。軽い朝食をとったあと、玄関ホールへ集合してそれぞれが馬に乗った。森の中は馬車が入れないからね。


ちなみに、母の馬にディーナ。ディオ兄の馬に俺が乗っている。ディーナと二人で乗るつもりだったが、母から却下された結果だ。ちなみに、父は飛行魔法で先行し行く先の安全確認をしている。


さーて、聖域ってどんな場所なのか今から楽しみだ!

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