ボクがよしもとのお笑い芸人だった頃の話

祝井愛出汰

第1話 楽屋裏でボコボコ

「なんで出来ねぇんだよ!」

「すみません、すみません……」


 ボコボコです。

 お笑いライブ終わり。

 ステージ裏の通路。

 床に正座したガリガリの背の低い芸人が、先輩に囲まれて蹴り飛ばされてます。

 蹴られてるのは、今や芸術家としての評価の高いカラテカの矢部太郎くん。

 蹴り飛ばされてる原因は、ライブのゲームコーナーで「一人一回ずつ腕立て伏せをしていく」というものをやった際に、矢部君が毎回絶対に腕立て失敗してしまってコーナーが成り立たなかったから。

 その横では、当時はコンパ芸人の「コ」の字すらなかった素朴な少年カラテカ入江くんが責めるような目を矢部くんに向けています。(当時カラテカのネタは全て入江くんが作っていたのですが、いつも笑いを取っていくのは矢部くんの方だったので、彼はめっちゃ嫉妬してました)


 さてさて。

 この話で何が言いたいかというと。

 別に「暴力が悪い!」とかってことを言いたいわけじゃないんです。

 ましてや「吉本興業の裏側はこんなに野蛮」なんて言いたいわけでもありません。

 吉本興業はタレントを育てませんし、こんなことが起こってることすら知りもしません。

 では、なんでこういうことが起きるのか。


 その答えはただひとつ。


「師匠がいないから」


 これに尽きます。

 みなさんは、多分こう思われるんじゃないでしょうか?


「え、でも、他のお笑い事務所だって師匠はいないよね?」


 と。

 そうですね、他の事務所にも今どき「師匠」なんてものはいません。

 いるとしたら、ソニー・ミュージックアーティスツのハリウッドザコシショウさんくらいのもんじゃないでしょうか。

 話を戻します。


 なぜ、吉本興業だけが師匠がいないからといって、このようなことが起きるのか。

 答えは簡単です。


 芸人の数が多すぎるから。


 作者は他のお笑い事務所にも所属したことがあるのですが、大体どこもこじんまりとしたものです。

 毎年増える芸人の数もせいぜい一年のうちに数組。

 それぞれの事務所が「ファミリー」として成立しているような感じです。

 事務所お抱えの「構成作家」と呼ばれる人を中心に、どこも大抵まとまってて、ある程度監視の目があります。

 それもこれも、目の行き届く範囲の組数しか所属してないからですね。


 ではでは。

 毎年毎年、数十組以上の新人芸人がなだれ込んでくる吉本興業。

 当然、監視の目なんて届きようがりません。

 そもそも、マネージャーや正社員は、末端の芸人のことを顔どころか名前すら知りません。

 今はどうか知りませんが、少なくとも当時はそうでした。

 例えるなら、ソフトバンクホークスの育成選手枠みたいな感じですね。


 だから師匠なき芸人のボクたちは、ステージが終わるごとにこうやって自分たちを鍛えていってたんです。

 反省会&反省会の毎日ですよ、ほんとに。

 その一環で、手が出ることもあるってだけの話です。

 え? 酷い?

 だからって暴力はダメだ?

 そうですね、ネットで情報が増えてリテラシーの高くなった現代ならそう思うでしょう。

 ボクも今はそう思います。

 でも、当時ボクらはそれしかやり方を知らなかったんです。

 だって、誰も教えてくれなかったから。

 ちなみに自分は殴ったことも殴られたこともないです。

 無ですね。

 存在自体が雑魚だったので、殴られるようなアクションすら起こせてないような「無」の存在でした。

 まぁ、だから当たり前のように売れなかったのですが。

 というのも。


「ネタさえ面白けりゃいいだろ」


 当時は本気でそう思ってたからです。

 典型的なダウンタウンフォロワーってやつです。

 ということで、別に暴力を肯定するわけではなく、当時誰も答えを教えてくれなかった環境で、文字通り芸人同士ぶつかり合いながら、いつか売れることを夢見て切磋琢磨しあってましたっていう話なんです。

 

 では、そんな多頭飼い&野放し育成方針な吉本興業だけ、なぜ他の事務所よりもこんなに「後輩芸人が先輩に女性を斡旋する」という構図が増えていったのか。


 次の記事では、そちらを解説していきたいと思います。

 興味がある、もっと聞きたい、と思われた方は、記事下の「♡」や「☆☆☆」をクリックしてください。

 色々書いてる気晴らしに書いていってるので、みなさんの反応が多いと筆が早くなるかもしれません。

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