【短編】好き。好き好き好き好き……沙耶香ちゃん
南川 佐久
第1話 私は沙耶香ちゃんが好き
沙耶香ちゃん。
沙耶香ちゃん。
私の大好きな沙耶香ちゃん。
沙耶香ちゃんと私は中学の頃から同じ部活で。ここは中高一貫の女子校だから、かれこれ4年くらいの付き合いになる。
でも、沙耶香ちゃんと私はただの友達で。
他の子たちより仲はいい方だと思うけれど、私は決して沙耶香ちゃんを独り占めできるポジションにいるわけじゃない。
沙耶香ちゃんは小柄で、まんまるい瞳が大きい、愛らしい子だった。肩まである髪は栗色でふわっとしていて、横に並ぶ度にシャンプーのいい匂いがする。
私だって女子の端くれだし、身だしなみには気を遣っているけれど、沙耶香ちゃんが持つような天然モノの魅力を持ち合わせているわけじゃない。
可愛い沙耶香ちゃんの隣にいても恥ずかしくないレベルに、一生懸命手入れをしているだけだ。
「ねぇ、沙耶香ちゃん。今度のハロウィン、一緒にディズニーに行こうよ」
「あ。テスト休み期間ね! いいよ! なんか、ハロウィンは毎年レイちゃんとディズニーで過ごしてる気がする!」
にこ!と屈託なく微笑む沙耶香ちゃんが今日も可愛い。そうやって、私と過ごすことを楽しみにしてくれることが、何より嬉しい。
それに。毎年一緒? 当たり前じゃない。
だって毎年、誰よりも早く誘っているもの。
ハロウィンのディズニーは期間限定の食べ物がたくさんあって、ちょっとダークな雰囲気が、フリル多めの服を好む沙耶香ちゃんにとても似合っていて、私も大好き。
私の毎年の楽しみ。
そうして、今年こそは、手を繋ぎたいと思っている。
いつも繋ぐような、友達同士の繋ぎ方でなくて、園内にいる沢山のカップルと同じような、恋人同士の繋ぎ方で。
「楽しみだね、沙耶香ちゃん」
「その前にテストがんばらなきゃだけどねぇ〜」
たはは、と肩を落とす姿も可愛いよ、沙耶香ちゃん。
もし、頭を掻いているその華奢な手を、絡めるように握ったら、どんな顔をするのかな?
拒絶されたらどうしようとか、ちょっと怖い気持ちもあるけど。今から本当に楽しみ。
◇
テスト期間を無事に乗り切った私たちは、約束通りランタンとパンプキン、コウモリに彩られたディズニーランドにやってきた。
フリルのついたスカートをふわりと舞わせる沙耶香ちゃんのなんと可愛いことか。
「おはよ〜、レイちゃん!」
改札前で手を振る沙耶香ちゃんの元に駆ける。
「おはよう」
すっ、と手を差し出すと、沙耶香ちゃんは一瞬きょとんと戸惑ったが、いつものように手を握り返してくれた。
これが女子校の良いところだ。
ナチュラルに女子同士で手を繋ぐ文化が根付いている。
そう。仲のいい女子同士は手を繋ぐのが当たり前なの。
恋人繋ぎはさすがに、無いんだけどね。
今日はそこに踏み込んでみたい。
もう一歩、沙耶香ちゃんの中に踏み込みたい。そうして受け入れられたい。
それが私の全て。
「今日は何のジェットコースターに乗ろうか?」
自然な会話に少しの下心を混ぜて、指先を遊ばせてみる。
さわさわと、手の甲を撫でて、思い切って恋人繋ぎをしてみた。
「ひゃっ! くすぐったいよぉ、レイちゃん...!」
驚かれたことに動揺する。
このまま手を離されたらどうしよう。
そう思ったら、つい指先に力がこもってしまって。
逃げられないくらいに強く握ってしまった。
「レイちゃん......?」
しまった。さすがに不自然だったか。
「今日は寒いね」
はは、と誤魔化すように握り直す。
「あったかいね......」
「手袋、持ってくればよかった」。
咄嗟に言った台詞で、沙耶香ちゃんは騙されてくれた。
そのまま私たちは恋人繋ぎをして、ディズニーランドを楽しんだ。
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい。
沙耶香ちゃん、大好き。
大好き大好き大好き......
......どうしよう。
キス、したい。
※あとがき※
気分で始めた百合短編です。
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