第27話 嘲笑と侮蔑の的
バニアの言うことは事実だ。婚約していた頃にカリブラはアスーナから金を借り、課題もやってもらっている。ただし、貸した金は返済されず、課題も一方的なものになったままだ。カリブラは反論もできないし後ろめたい立場のはずなのだ。
(そんなカリブラ様はいつも私に要らぬちょっかいを……迷惑をかけてきた。イタズラにドッキリ……本当に常識のない男……)
「ああもう! デートって言っても一緒に買い物したり市井にお忍びで遊びに行ったりしただけなんだ! やましいことはしてない!」
「妹君には高価なプレゼントを買ったとか~、それもアスーナ様を差し置いて~」
「ソルティアが過剰に駄々をこねたから仕方なくだ! アスーナは可愛げがないくらい物を欲しがらないから、」
「それも婚約破棄の原因だと反省なさらないので~? 呆れ果てますね~」
「なんだと!? それもなのかよ!?」
婚約していた頃からアスーナよりも妹を優先する。それだけで婚約破棄する理由としては十分だと考えるのが貴族なのだ。カリブラは驚いてアスーナを見るが、バニアもアスーナも本心から呆れてしまう。そして、呆れるのはこの二人だけではなかった。
「可愛げがないから蔑ろに~? 物を欲しがらなくてもプレゼントを送るなりの婚約者としての責務を果たすべきでは~?」
「面倒くさかった……じゃない、ええい! 何なんだよ!? 他人のくせに僕とアスーナの問題に口を挟むな!」
「私はアスーナの親友だからいいんです~。そもそも、今ここで聞いている皆さんも同じことを思っていらっしゃいますけど~?」
「――っ!?」
『皆さん』と聞いた時、カリブラはとっさに周りを見渡した。すると遠巻きに自分たちを眺める貴族の令息令嬢たちが目に映った。しかも、興味津々に眺める者や苦笑している者が何人かいる。
いや、大多数が呆れて笑っているか嫌悪感を見せていた。それを目にしたカリブラは自分が周りにどう見られていするのかを理解した。
自分が嘲笑と侮蔑の的だと。
「~~~~っ!」
カリブラは羞恥で更に顔を赤く染める。イタズラやドッキリを仕掛けて他人に恥ずかしい思いをさせたり怒らせたりして相手の顔を赤く染めたことは幾度もあったが、自分が恥ずかしい思いをしたり怒って顔を赤くするのは滅多になかったのだ。
(時と場所を考えてない。本当にそこは治らないのね)
「お、お前ら! み、見せもんじゃねえぞっ!」
「みっともなく騒ぐからですよ~」
「ぷっ」
「――っ!?」
追い詰められるカリブラが珍しくて、思わずアスーナも吹き出してしまった。その直前にカリブラがアスーナに視線を戻したために、カリブラは自分がアスーナに笑われたという事実に直面してしまう。
つまり、自分と婚約破棄した女に眼の前で笑われたわけだ。
「くそっ! 覚えてやがれ!」
あまりの屈辱に耐えられなくなったカリブラはアスーナとバニアをキッと睨みつけながらその場を後にした。カリブラが教室を出て行ってからもクラスメイトたちから笑い声と嘲笑の声が少しの間続いた。
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