第24話 不機嫌な男
だからこそ、前の婚約者カリブラ・ゲムデスがどれほど最悪な人間だったのか改めて理解もできた。カリブラはアスーナを気遣うようなことは一切してこなかったのだ。もはや、カリブラはアスーナのことを『都合のいい女』としか見ていないようなクズであったとしか思えない。
(もしもカリブラ様がソルティアのことで私になにか言うようであれば……ハラド様の用意してくれた『陰』が対応してくれることになるかも……)
「アスーナ? どうしたの深刻そうな顔になって? やっぱりカリブラが突っかかってくるのが心配?」
「え!? もしかして顔に出てた?」
「アスーナはカリブラのこととなると顔が曇るからね。そもそもカリブラのことだから、ソルティアのことで何かあれば真っ先にアスーナに声をかけてきそうだし…………げっ」
「何?」
「言ったそばから来やがった……」
貴族令嬢らしからぬその言葉を聞いて、アスーナはバニアの視線の先を振り返る。その先は教室の出入り口付近、そこに見知った顔の青年が立っているのが見えた。不機嫌な顔してこちらも見ているが間違いなくカリブラだ。
「「…………」」
カリブラの不機嫌な顔が遠目に見えただけでアスーナの顔が強ばる。嫌な予感が的中したからだ。
「……ごめんバニア。このままだと面倒事に巻き込みそうだから……」
「気にしなくていいわよ。あの男が何か言ってきたら私もガツンと言ってやるわ」
「でも……」
「ここは教室よ。カリブラも大事にはできないはずだから、婚約破棄の時みたいにね」
不安がるアスーナのために力強い笑みを見せるバニア。ただ、そうしている間にもカリブラは二人に迫っていた。ズカズカとした足取りでも不機嫌だと分かる。周囲の生徒達も何事かと気になり始めるくらいに。
「あの男、本当に何様のつもり? よくもまあ、感情的になれるわよねえ」
「……本当に成長しないと言うか、人の目を気にしなさすぎというか……理解に苦しむわ……」
そして、二人の眼の前まで来るとカリブラは挨拶もなしに怒鳴りだした。
「アスーナ! ソルティアのあれは何なんだよ!」
「……カリブラ様、おはようございます。妹が何かありましたでしょうか?」
「お前の妹があんな性格だなんて聞いてない!」
(……やっぱりソルティアはやらかしているのね)
「ソルティアのやつはとんでもなく我儘だ! うちの屋敷に来てからは自分が侯爵家の一員みたいに振る舞ってやりたい放題しやがるんだ! 屋敷の宝石を持ち出したり母上のドレスを勝手に着たり冷蔵庫の菓子を勝手に食べたり挙げ句には僕の部屋に入って物を壊したり散々だ!」
「…………っ!?」
アスーナは声も出なかった。ソルティアが問題を起こすだろうとは思っていなかったが、カリブラが言うようなことをしたというのなら想像以上に酷いものだった。ソルティアは伯爵家から侯爵家に移って、より傲慢になったのだろうか。
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