アネでエルフで甘い蜜 ~辿り着いた神話の遺跡で、美少女エルフが俺のアネ(姉とは言ってない)になりました。~

ひたかのみつ

第1話 アネになったエルフ

「え、えぇっと。 はじめましてお義母かあさん、わたし、ユグ君の姉になりました、サキネと言います。 不束者ふつつかものですが、よろしくお願い致します! 」

「母さん、僕ついに自分のアネが出来たんだ! サキネとは森の洞窟で知りあったんだけどさ! そこがすごい場所で―― 」

 ユグの母は非常に混乱していた。

 数日帰らなかった14歳の息子が突然、とても美しい神話の種族:エルフを連れて帰ってきたのだ。

 しかもユグは、その金髪で耳の長い娘が、自分のアネだと主張している。


「僕、これからの人生はサキネと一緒に頑張る! サキネのこと、ずっと大事にするよ! 」

「えっ! ユグ君?! ちょっと、うれしいけど流石に恥ずかしいよ…… 」

 それを聞いて、頬を赤くするエルフの少女。


 いったい、どうしてこうなったのか。

 2週間前、14歳の少年ユグ・ショラトルは初めての家出いえでをした。


「母さん! 僕も今年で15歳となりました。 そろそろ、自分のアネを見つけたいのです」

「うーん…… 」

 簡素な住宅の小さな部屋の中で、茶髪の少年:ユグ・ショラトルは、焦っていた。


「父さん、分かっています。 アネは簡単に決めるべきものでないこと」

「ユグ。 そんなに焦らなくても、きっとそのうち良いアネが―― 」

「そう言っている間に、友達はみんなアネを持ちました! 」


 魔法と剣技の実力はもちろんだが、この世界にはもう一つ、

 とても重要なものがあった。 【アネ】だ。

 アネとは、簡単に言えば一生を共にする【契約精霊】である。

 対象となる精霊の姿は様々で、獣に魚、龍、実体のない幽霊もこれに含まれる。

 魔力があれば、意思のない置物さえも、アネになり得る。


 アネは契約者に特別な力を付与し、その者の才能を引き出す。

 しかし高位のアネとの契約には、大きなリスクも伴う。


「僕の素質だけでは、立派な魔法も剣技も、周囲と差が開くばかりです」

「そんなに焦らなくても、ゆっくり探せばいいんじゃないかしら? 」

「街の中で、相性の良いアネを毎日探して…… それでもだめなんです」

「でも、まだ見つからないのでしょう? 」

「はい。 なので街の外を。 森にある洞窟の奥ならまだ…… 」

「あそこは危険だから絶対にダメよ! 」


 母親に止められたユグは、うつむきき、静かに服のすそを握った。

「わかったよ…… 」


 その晩、ユグはひとりで家を抜け出し、荷物を抱えて森へ向かった。

「ごめんなさい、母さん」


 森は暗かったが、何度も通った道だったのと、ユグの気分が高揚していたのもあって、迷うことなく抜け出すことができた。

 

 洞窟は深く、危険な生き物も多い。

 魔法も剣も未熟でアネもいないユグには、確かにまだ行くべき場所とは言えない。

「でも、行くぞ。 僕のアネを見つけるんだ」


 物陰から様子をうかがいつつ、奥へ奥へと進む。

 その日はここ数年の中でも珍しく、壁から光りキノコが一斉いっせいに伸びてきており、足元の危険も少なかった。

「運がいいぞ、これが光ってる間は、目の弱い魔物がこっちに近づいてこない」



 ユグは、とうとう洞窟の奥地を進み始める。

「ここからは壁の色が違うし、すぐ横に崖もあるな」


 しかし、まだ10歩も進まないうちに

「おわっ!! 」

 ユグは足を滑らせて、崖に転がり落ちていく。

「うそ! いやだ! 」


 背負っていた荷物がバラバラと散っていく。

 手を怪我しながら、頑張ってどこかにしがみつこうとするも、そう上手くはずもなく、ユグは全身を打ち付け、意識が遠のく。


 そのとき

「……~♪ ……ふ~ん、ふんふ~ん」

 遠くから何か聞こえてくる。


 それは楽し気で、やさしくて、幸せな気持ちにさせてくれるような、なんとも可愛らしい鼻歌だった。

 

 ユグはその鼻歌を遠くに聞きながら、気を失った。

 

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