◆完結◆雨上がりにかかる 虹のような妻との約束◆短編◆
瑞貴@10月15日『手違いの妻2』発売!
第1話 11月22日(結婚記念日)
帰宅した夫を見て、
「あ~、お帰り。今日は早かったのね」
「ってか、よく言うよ。散々『今日は早く帰ってこい』って騒いでたのは、
食卓テーブルの椅子に黒い鞄をボンッと置く
「だって、せっかくの結婚記念日なんだもん、当然でしょう」
美里は退屈そうにセミロングの黒髪の先端を触っていたが、夫の帰りを確認し、キッチンへと向かう。
部屋着に着替えた
「そういや、今日で結婚何年目なんだ?」
「酷い! 覚えてないの⁉」
「六年だっけ?」
「ぶぅ~っ! 七年でしょう」
「ああ~悪い悪い、怒るなって。数え間違いだ。俺たちが二十八歳のときのいい夫婦の日に結婚したんだもんな」
「そうよ! まあいいや。ご飯にしましょう」
「妊活のために仕事辞めて、家で絵を描くって言ったときは反対だったけど、こうやって毎日美里の手料理が食えるのって、いいよな」
「ふふっ、そうでしょう。ブラック企業で働いていたら、妊娠以前に武尊に会えないもの。はい、今日の夕飯」
カウンターにコトンと音を立てて置かれたシチュー皿に目をやる武尊が、活気づく。
「よっしゃぁ! ビーフシチューじゃん。これ、めっちゃ好きなんだよ! 美里の料理はどれも美味いけど、これは店で食うより断然、美里のがいいんだよ」
「はいはい。喋ってないで手を動かして、テーブルに並べてよね。ワインもいるでしょう」
「もちろん」
二人揃っていそいそと準備を整える。
美里お手製のビーフシチューと近所のパン屋で買ったバケット、グリーンサラダが並ぶ勝木家の食卓へ、一足先にワインを持つ
美里が席に着いたタイミングを見て、
顔を見合わせ、「カンパーイ」と声が揃う。
ワインを口に含んだ後、武尊がすぐさまビーフシチューをぱくりと頬張る。美味いと叫ぼうとする前に、目を細める美里が意味深な質問をする。
「良いニュースと悪いニュース。どっちから先に聞きたい?」
「ん? なんだそれ」と首を傾げる
そうすると、にっと笑う美里が嬉しそうに、聞いて聞いてと前のめりで話す。
「実はね、出版社からイラストの仕事が届いたんだ。何かの賞を取った小説の表紙だって! すごくない!」
「へぇ~、まじか。個人でやってても、そんな仕事もくるんだな」
「そうみたい。私のSNSの投稿を見た作家さんが、美里の絵を押してくれたんだって」
「やったじゃん。その作家さんは見るが目あるな。美里の絵はまじで上手いし、売れるんじゃね」
「ふふっ。私が書いたイラストの本が書店に並ぶのよ。来年の夏だって! すっごく嬉しいんだけど、どうしよう~」
「良かったじゃん。頑張れよ! できたら俺も買うかな」
「ふふっ、どうせ本なんて読まないくせに、よく言うわね」
美里がくすくすと笑う。
「いいんだよ、観賞用だから。ってか、悪いニュースってなんだ? ゴキブリでも出たのか?」
「違うわよ。ほらっ、不妊症の検査をするからって、病院に行ったでしょう。それで、次は武尊も一緒に来てだって」
「ええぇ~、俺、絶対に嫌だって。面倒だし」
「なによそれ。絶対に子どもが欲しいって言ってたのは、武尊でしょう」
「子どもなんて自然に任せればいいだろう。そうすれば、できるって。それに美里の検査の結果だろう。一人で聞けばいいじゃん」
「だって先生が」
「絶対にやだね。不妊の検査をするって言い出したときに、俺の検査はしないって言っただろう」
「それは分かってるって。違うの……なんか、検査の結果を武尊にも伝えたいんだって」
「別に聞かなくてもいいよ。俺は休み取れないし」
「ねぇ、お願いだから一緒に来てよ。検査の結果だよ!」
「って、言われてもなぁ~。ちょうど大きな契約の仕事を進めているし、年末も近いから休めないって」
「先生が、なるべく早めがいいって」
真剣な口調の美里が、片目を瞑り頼み込む。
「とか何とか言ってさ、俺を騙して病院に連れていく魂胆なんじゃないの? 夫へ妻の検査結果をわざわざ聞かせるって変だし」
「ち、違うわよ。本当なの!」
「どうかなぁ~。でも、何回頼まれても無理なものは、無理だって。今の契約が取れるかで、昇進もかかっているんだから。どうせ急がない話なんだし、来年に入ってからでもいいんだろう」
「ええぇ~。そうなると、1か月半も先になるじゃない」
「いいって、いいって。まあ、来年じゃなきゃ無理だから、早く聞きたいなら一人で行きなよ」
「そう……。分かったわ。『子どもができない体です』みたいな悪い結果を一人で聞いた後、家まで帰ってくる自信もないし、やっぱり二人で行こう。明日、病院に電話しておくね」
必死に説得するものの、頑として譲らない
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