自由に生き抜く悪党の美学
横切カラス
第1話
イヤだ、イヤだ、イヤだ。
保育園は嫌な事ばっかりでウンザリ。
「お昼寝の時間ですよ」
「眠く無いからイヤ」
「ご飯の時間ですよ」
「お腹空いて無いからイヤ」
「お歌の時間ですよ」
「好きな歌じゃないからイヤ」
僕は自分がしたい事だけをしたい時にしたい。
正しくクソガキ。
そんな僕も小学生になると……
何も変わらずクソガキだった。
なんなのあの学校と言う狭いコミュニティ。
その中でルールに縛られて窮屈で仕方ないよ。
社会に出れば自由になれる。
そんな事は無いと僕は中学生になる前までには気付いてしまった。
結局コミニティが広がるだけで、そのコミニティのルールがある。
ルールに縛られて生きるのは窮屈で仕方がないよね。
もちろん人間社会にルールが無いと秩序が保てない。
そんなのは当たり前。
頭では理解してるよ。
でもイヤな物はイヤ。
何故窮屈なんだろう?
答えは簡単だ。
他人が決めたルールだからだ。
じゃあ自分でルールを作ろう。
社会のルールなんて関係無い自分だけのルール。
自分の決めたルールにだけ従って生きていけばいい。
そうすれば自由だ。
ヤバイ思想の持ち主。
社会不適合者。
これが悪党の考え方だと言うのなら、僕は悪党でいい。
◇
僕は11個のルールを作った。
これこそ悪党の美学だ。
『美学その1
自分が悪党だと自覚しなくてはならない』
自分が社会に馴染めない事、ルールを守らない事、悪党として生きて行く事。
それは決して人や社会のせいではない。
間違ってるのは僕の方。
それを忘れてはいけない。
現在進行形で警察官に追われているのも全部僕のせい。
だから僕は濃い紫色の中折り帽子と白い仮面で顔を隠し、濃い紫色のロングコートとスーツで闇に紛れる。
『美学その2
ルールを守っている善人の生き方を尊敬し、決して馬鹿にしてはいけない』
ルールを守って生きていく事は難しい。
僕には出来ない事をやってのける善人を馬鹿にするなんてあってはならない事だ。
だから僕は全速力で逃げる。
善人の鑑である警察官を侮ったりしない。
『美学その3
善人から奪ってはならない』
善人というのは、この窮屈な世界で必死に生きている。
その行いが必ず報われるわけでは無いけど、
少しでも多く報われるべき人達なんだ。
そんな人達の物を奪ってはいけない。
今奪って来たこの絵画も大金も悪党から奪った物。
じゃあなんで僕が警察官に追われてるかって?
その理由は至ってシンプル。
人の物を奪う事は犯罪だから。
遥か下の地上からは人とパトカーが。
遥か上の空からはヘリが。
電気の光で彩られる夜のビルの間を跳び回って逃走する僕を追いかけてくる。
楽しいな。
捕まったら最後。
今夜からは僕のお家は牢屋の中。
本気の鬼ごっこ。
やっぱり予告状出すと追手の数も大違いだね。
『美学その4
面白そうな事には積極的に参加する』
楽しく生きるにはこれが重要だ。
幸い僕は悪党。
やってはいけない事を思う存分出来る。
ならばなんでもやらないと損だと言う物だ。
今回も若手実業家かなんか知らないけど、自慢のコレクションを展示会なんかして見せびらかすからいけないんだよ。
そんな事したら欲しくなっちゃうじゃないか。
だから奪っちゃった。
テヘッ。
大金はついで。
お金はいくらあっても困らない。
いいよね?
どうせ脱税してたんまり溜め込んでたお金だからね。
さあ、今日はそろそろお暇するとしよう。
僕は一気に急上昇してヘリよりも上空に逃げてサーチライトを躱わす。
街中の一切星の見えない夜空の闇に溶け込むように僕は消えた。
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