第9話 タイパと喫煙

 Z世代はタイパを重視するとビジネス系のメディアにあった。タイパというのは、タイム・パフォーマンスの省略形で物事に費やした時間に対する効果(時間対効果)の意味らしい。コスパの時間版というわけだ。つまり短い時間でより大きな効果を得ようとする姿勢だと言える。


 具体的には動画を倍速再生したり、ショート動画を見たりするらしい。Xの広告なんかでもタイパという単語を見かけるようになった。人生というのは有限だから、当然と言えば当然だ。けれどなんでもパフォーマンス(効果)として計測できるのか疑問は残る。


 例えば趣味に充てる時間。趣味は趣味だから一円にもならない。つまりパフォーマンスは0なのだろうか……と思ってしまいます。なのできっとタイパという言葉は限定的に使われているんでしょう。


 そんなことを考えてから、Z世代の友人に「タイパ」って知っている? と聞いたところ「知らないし、周りでも使ってる人いない」とのことだった。メディアなんてそんなもんですよね。きっとごく少数の人が言い出したことを、大げさに取り上げたんだと思う。


 ただこういう言葉が生まれた、ということについてはもう少し考えてもいいのかもしれない。費用対効果、時間対効果というのは突き詰めると「有用性」に隷属している。何かの役に立つという考え方の下で動いている言葉なわけです。


 けれど人って何かの役に立つ生き物なんですかね。つまり金槌やドライバーのように目的があってそれに沿う形をしているのかな? と思うわけです。社会人は仕事をして、お金を儲けてます。けどそれが人生の目的かと言われたら違う気がする。人生に目的なんてあるのかしらと思う。


 ここでタバコを一服。


 タバコはいいですよ。高いし身体に悪い。なんの価値も生み出さない害悪。

 最後にジョルジュ・バタイユというフランスの思想家の言葉を置いておきます。


「煙草をふかすことで、人は一瞬だけ、行動する必要性から解放される。喫煙することで、人は仕事をしながらでも〈生きる〉ことを味わうのである。口からゆるやかに漏れる煙は、人々の生活に、雲と同じような自由と怠惰をあたえるのだ。」

 ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分:有用性の限界』

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随筆、ときどきエッセイ 清原 紫 @kiyoharamurasaki

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