クリスマスイブをぼっちで過ごそうとしていたら、命の危機に瀕した死神から仕事の手伝いを頼まれた話
泡沫 希生
死神に死ねと言われるクリスマス
この季節、俺にとっては、通りに並ぶ店に飾られたクリスマスデコレーションも、談笑しながら歩く人々も、ちらちらと降る綿雪も、目に入るもの全てが浮かれて見える。
俺はクリスマスがあまり好きじゃない。イブの今日もバイト終わりに買い物を済ませたらさっさと帰り、一人でカップラーメンを食うつもりだった。なのに、
「すみません! あなた、死んでみませんか?」
俺は今、見知らぬ同年代の女に引き止められている。アパートまで後二分で着くというのに、アパートが見えているというのに、だ。
ベンチがあるだけのこじんまりした公園で、半ば泣いている女と男が言い合いをしている。端から見たら、クリスマスに大喧嘩をしているカップルと思われるのではないか。
浮かれた空気の流れる大通りと違い、公園がある裏通りの空気は冷たく澄んでいる。つまり先ほどから人が全く通らない。困った。
俺が悪いのだ。雪が降る中公園のベンチで寝ている女が目に入り、心配になり近づいてしまった。なにせ、女の格好は薄そうな黒いワンピースで、コートさえ着ていなかった。
最初はいつものことだと無視したが、よく見ると女の上に雪がうっすら積もっていたので、これはヤバいと思い放っておけなくなった。
近づいた瞬間、女は金髪のポニーテールを激しく揺らしながらガバッと起き上がり、俺の腕を抱きしめてきて今に至る。
「死ぬのが嫌ならお願いです。せめて手伝って下さい! ノルマが終わらなくて! 今年は二十八日が仕事納めなんで、あと四日しかないんです! 先月も先々月もノルマ達成できてなくて、このままじゃ年末年始無きゅうで働かないといけないんですぅ!!」
「俺もそうだよ、コンビニバイトしながら年越す予定だよ」
「違います! 無きゅうって、無休かつ無給なんですよ! 後がないんです。こうなったら、やっぱり直接
女は俺の腕から片手を離すと、その手を横に伸ばした。どういう原理か分からないが、その手に鎌が現れる。俺の背丈ほどの長さがある、銀色の鎌だ。
そんな物を見たら普通の人間は逃げるのだろうが、俺は怖くも何ともないので、動かせる方の腕で携帯を取り出し突きつける。
「呼ぶぞ、警察」
「ま、待って下さい! 私、怪しい者ではないんです」
「いや、さっきからどう見ても怪しい人だよね? 普通なら初対面の人に鎌つきつけたりしないよね?」
「わ、私はこういう者です」
女はそう言うと鎌を消して、俺の腕をようやく離してくれた。
「私は、死神のナノハと申します!」
死神と聞いて俺は納得したが、ふと気にかかったことがあり、話を進める前に、一応こいつが本物の死神なのか確認することにした。
「最近のクリスマスって、仮装するようになったわけじゃないよな?」
「あ、もしかして、ぼっちで過ごしすぎて、こういうイベントがどういうものか忘れちゃった可哀想な人ですか?」
「お前、死にたいのか?」
「こら! そんな酷い事、他人に言ったら駄目ですよ」
「今、そっちから死ねって言ってきたよねっ?」
これが、ナノハという死神との最悪な出会いだった。
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