勇者召喚に巻き込まれた元神様は異世界ライフを堪能したい

エム

プロローグ

第1話:神様の日常

 唐突な話なのだが。最近、暇をもて余した神様達が、娯楽として下界に降りて遊んでいる事があるらしい。神として、ではなく、人間として。

 私はかつて神であったが、自ら起こした不祥事で追放され、今やしがないJKだ。しかし、かつての記憶も程々に残っているし、力だって完全に全て奪われた訳ではない。なので、程々にチートな日々を送らせてもらっている。





 授業終わりの、そして長休みの開始を知らせるチャイムが鳴る。休み時間になって一気に騒がしくなった教室内で一人、疲れたぁ、と愚痴を零す。

 私は、神崎星奈かんざき せな。訳ありの孤児で、ちょっと特殊な学校に通っている。…ちなみにどういう風に特殊かというのを理解する為には、この世界をある程度知る必要があるのだ。というわけで説明させて貰おう。



 この世界には、特殊能力を持っている人がおり、その人数は確認されている分だと、世界中の人口の約1%程度だと言う。

 そしてその特殊能力を持つ者は学生時代からそういった能力者達が集められる学校に通って、その能力に慣れる訓練をする。能力の暴走等を防ぐ為だ。

 その学校は勿論日本にも幾つか作られている。私が通うのもその学校の内の一つ。関東(主に首都圏)に住む能力者達が通う場所なのだが。この学校では人数の少なさ故に2クラスしかなく、私が居るのは2-A。もう一つは2-Bだが、まぁこの際どうでも良いだろう。

 このクラスの中で私は学級委員をしている。しかしこれがまた大変で。能力者というのは皆、良く言えば個性豊か。悪く言うと協調性が皆無。クラスでの話し合いは綺麗に纏まった試しがない。とても疲れが溜まってしまうから、私は休み時間によく机に突っ伏して寝ている。はぁ、こうしていると、だんだん眠たくなって……





 「ねぇねぇ主さま、行かないの?」


 とても華奢な中華風の装いをした赤茶の髪を持った子が問い掛ける。酷く朱い眼の印象に残る少女だ。問われた「主」は、動じず椅子に腰掛け、目を閉じている。


「煩いな、もう少し静かに出来ないのか…あぁ、脳筋だし、せっかちだから無理か…。」


 これまた中華風で月白色の髪を持った少年が、赤茶髪の彼女に容赦なく言う。赤茶髪の少女と同じ10代程の見た目をしているが据わった藍色の目も相まって大人びているように見える。

 少年の言葉に苛ついたのだろう、少女が眉をつり上げて、声を荒らげる。


「は、はぁ?別にそんなんじゃないしッ⁉︎あたしだってちょっとくらいは…!」

「何が『そんなんじゃない』んだよ、動揺しまくりだし、まったくもって会話の出来ないヤツだな…。」


 などと軽口を叩き合っている。そして他の人達は呆れたような、微笑ましいような目で眺めている。主と呼ばれた女性も依然腰掛け、目は閉じているが、会話や周囲の雰囲気は感じ取れるようで、口の端を少しあげたかの様に見えた。そのことに気付いたのか、一人の男性がすっと椅子に近付き、女性の顔を覗き見すると、フッと息を出し、微かに笑う。その彼の額からは、鬼のような立派な角が、右目の上から伸びていた。

 少年に言い負かされ、膨れっ面をしている赤髪の彼女は、華奢な身体に見合わぬ大きな戦斧を背中に背負っていて、一方眠たそうに欠伸をしている青年は、大きな本を浮かせている。どういう原理で浮いているのか…いやそこは重要じゃない。…線の薄い華奢な身体の為か、とても大きく見える帽子を被っており、ひ弱な印象を受ける。衣服も、ハロウィンで見たりするような魔法使いの格好に、中華要素を入れた感じの服装だ。

 角の生えた男性は口元に穏やかな微笑を浮かべたまま、「行きますか?」と静かに主に問う。

 問われた主は動き出した。


「…あぁ。行くとしよう。…最後の、」


 瞬間、動いたことで光の下に晒された、その主の顔は───






「……はっ」


 ついうっかり深く寝ていたようだ。しかし幸いにも、まだ十分程しか経っていない。と、前方──特に、黒板の近くが騒がしい事に気付く。私が起こされた元凶だな。何を話しているのか気になって、耳を傾けてみる。…いや、盗み聞きでは無いから。これもクラスの事を良く知るという大事な一歩ですから。

 …ふむふむ、どうやら話を聞くに、校則を無視するタイプの女子数名が、うちのクラスの人気者なる男子に言い寄っているらしい。まぁ、これはいつもの休憩時間の光景だ。が、まぁ女子が内輪揉めしているようだ。よくやるなぁ〜…。

 で、それを困ったように見ている男子は私の見知っている人…というか、一つ屋根の下で暮らしている人な訳だけれども。そんな目をしても助けてやんないからね、一人でちゃっちゃと抜け出せ。


「…はぁ〜……」


 そう言えば日誌書いてない…確か先生の所に取りに行かなきゃいけないんだったかな…。カタリと音を立てて椅子を引き、立ち上がる。

 ぐ横にある窓から、その窓いっぱいに広がる曇天が見える。何処か不安にさせる様なそれを眺めつつ、私は思考を進ませる。

 にしても、あんな昔の…上にいた時代の事を夢に見たなんて。これもなにかの縁だろうか?




 その日の帰り道、私は自分が途中で放棄してしまった天界がどうなっているのか、その処理に頭を悩ませていた。日本の八百万でかなり主要であるはずの大和はここに居るし…私が知ってる、全世界を纏められるほどの器を持つ神はそんな事するような性格じゃ無いし…


「? …どしたの、星奈。なにか、悩み事でもあるの?いつも以上に黙って。」

「……お〜い?聞いてる?」


 紹介がやや遅れたが、私に先程から喋りかけてきている男は、神崎大和(かんざき やまと)。黒髪黒目でかなり顔立ちもよく、声変わりは既に終わり、低く、心地の良い音を響かせる。今で言う、イケボ、とかいうヤツだ。

 背も高く、性格も良しときた。普通の男子高校生ならば、イタズラ大好きなクラスの中心である者もいるかもしれないが、大和はその実、お忍びで遊んでいる、数千歳の神様だ。その年齢から、大人のような落ち着いた雰囲気を醸し出している。女子にも男子にも平等に優しくするし、よく相談にも乗ったりしている。

 こんな絵に描いたようなヤツがいたら、学校ではそりゃあモテる。皆は大和から溢れ出るカリスマオーラに圧倒され、遠巻きにアイドルとして観ている。告白などもよっぽど自分に自信がある者しかしないので、本人はモテている自覚ナシである。タチの悪いことだ。本ッ当、実に厄介極まりない。幼馴染だという理由で大和に優遇されている私が物凄い被害を被り、日々迷惑するほどには。

 とは言っても、同じ孤児院出身、日常で接する機会は多く、大和もそこそこ真面目な性格で、こちらに被害が(主に女性陣からの)…なんて言えば、正義感にかられた彼によって何が引き起こされるか、想像するのは容易い。どう転んでも状況が悪化するであろうことは間違いないので、口が裂けてもそのことは言えな…


「こら!」


 いっっ!?…デコピンをされた。痛い。手加減はされているはずだが、不意打ちだったのもあり、痛い。というか私が何か気に触ることを…あぁ、数えきれない程していたな。例えば、無視するとか、無視するとか、無視するとか…仕方ない、何か会話でもしよう。気は乗らないが。


「どうした、大和」

「『どうした』じゃない!ついさっきから、ずっと黙りっぱなしだったんだぞ?人の話も聞かずに何を悩んでいるんだ?悩みなら、俺に相談してよ。そうすれば、楽になるかもしれない、俺と氷幽理の仲でしょ?いつでも相談に乗るから!」


 声真似下手だな……


「…はぁ、まぁ、分かった。相談するときは大和にする。」


 主に貴方のせいなんですよ、なんて言うつもりは無いが。


「…返事、おざなりだなぁ…いや、まぁ無視を決め込むよりかはいいけどさぁ〜」


 こんな軽口を叩き合いながら孤児院まで帰る。当たり前とも感じてしまうような、それでいて決して続くとは保証のされていない「日常」が好きだと私は思う。

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