番外編2:セクハラの行方①
「セリーヌ様。ステファン殿下が戻られたらお気をつけ下さいね」
ルーカスとセリーヌの結婚式が間近に迫ったその日、ジェイミーは口酸っぱくそう繰り返した。
セリーヌは少し前からルーカスの離宮に越してきていた。ウェディングドレスの最終調整や来賓の確認等、毎日息をつく間も無い。そんな時、辺境へと旅立ったセリーヌの元婚約者ステファンが二人の式に出席する為に一度王宮へ戻ることが知らされた。
「気をつけてって……ジェイミー、ステファン様は結婚式に参加されるだけよ?」
暢気な口調でそう返した主へジェイミーは小さく溜め息を吐いた。
「セリーヌ様、お優しいところがセリーヌ様の長所ですが……警戒心が薄過ぎます」
「でも、今のステファン様が何かしてくるとは思えないわ」
「確かに以前よりは大分マシになったのでしょう。ですが油断は禁物です。少しでも気を抜いたら危ないという心構えでいていただかないと困ります。以前のルーカス殿下のようにセクハラでもされたら……」
目を丸くしたまま黙り込んだセリーヌをジェイミーは怪訝そうに見つめた。少し言い過ぎただろうか。あのステファンが何かしてくるとはジェイミーだって思っていないが、念には念を入れ些細な心配事も取り払いたいところだ。硬直したままの主へジェイミーは声を掛けた。
「セリーヌ様?」
「ねぇ、ルーカス様は私だけは見えていたと仰っていたわよね?」
「……?はい」
「つまり、あの間違ったエスコートをしていた時も本当は見えていたと言うの?!」
セリーヌの叫びにジェイミーは呆れ切って顔を顰めた。ルーカスがセリーヌだけは見えていたと言う事実を知ったのはもう三か月近く前のことだ。ルーカスのあのセクハラが事故ではなく故意だとセリーヌは今更気付いたと言う。ジェイミーの冷たい視線に気付き、セリーヌは慌てて弁解した。
「だ、だって他のことに気を取られていたんだもの」
セリーヌが自分の容姿を知っていた上でルーカスから愛されていたことを知り心から喜んでいたことをジェイミーは知っている。だが、流石に暢気すぎるというか、無垢すぎるというか……警戒心が無さすぎることを心底心配しながらジェイミーは大きく息を吐いた。
「その点に関してはセリーヌ様は殿下に苦言を呈されても宜しいかと思いますが」
「そ、そうよね!!ガツンと言ってやるわ!」
拳を小さく握り張り切るセリーヌを見て、ジェイミーはバレないように小さく息を吐いた。
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