第6話




「ああ、そんなこと心配しなくていいよ。セリーヌの次の婚約者はもう決まっている。安心してくれ。」



「はっ……」



 言葉を失ったのはステファンだけではない。セリーヌも信じられない思いでルーカスを見つめた。



「先程父上とセリーヌの御父上に許可を戴いた。セリーヌ。」



 ルーカスはセリーヌの前に跪くとセリーヌの手を取った。目の見えない彼にとっては不安定な動作であるにも関わらず、ルーカスの動きはどれも優雅だった。



「セリーヌ。どうか僕と婚約してほしい。絶対に幸せにするから。君の隣にいることを許してほしい。」



「なっ……」


 ステファンは目を丸くして固まっている。セリーヌだって、相当驚いているが、頭のどこかは冷静で短い間に様々なことを考えていた。



(これは国王陛下もお父様も許してくださっていること。)



(ルーカス様の真意は全く分からないわ。公爵家との繋がりを強くして、王太子になりたいということかしら?)



(ルーカス様はこれまで婚約者がいない。流石に婚約者が必要になったということ?)



(分かっていることは、ここで首を振ればステファン様の婚約者のまま。)



(それだけは……。)



 セリーヌは意を決して小さく頷いた。ステファンは呆気に取られた表情で二人を見つめていた。


 セリーヌは頷いた後で、これではルーカスに伝わらないと口を開こうとした。だが、次の瞬間ルーカスに抱き締められていた。



「ひゃ!」



「セリーヌ!ありがとう!」



「ど、どうして頷いたと分かったんですの?」



「言っただろう、目は見えなくてもセリーヌのことは分かるんだよ。」



 幸せそうに笑うルーカスを見ていると、セリーヌの心の一部がじんわりと温かくなり優しい気持ちになる。それはずいぶんと久しぶりの感覚だった。



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