第4話
帰路を急ぐセリーヌは、思った以上に動揺していたらしい。十年間通い慣れた王城だというのに、見慣れない場所に迷い込んでしまった。
(ここは……。)
十年間、来たことの無い場所だというのに何故だが懐かしい。セリーヌはぼんやりと辺りを見渡した。
「……セリーヌ?」
透き通るような綺麗な声がすぐ傍で聴こえた。振り返ると、そこにはステファンの兄、ルーカス第一王子が立っていた。
「ルーカス、さま……。」
「やっぱり、セリーヌだ。」
「どうして、私だと……。」
セリーヌの戸惑いを余所に、ルーカスは優しく微笑んだ。
「分かるよ。目は見えなくても、セリーヌだけは分かるんだ。」
ルーカスは手を伸ばすと、セリーヌの頬を撫で涙を拭った。いつの間にか流れていた涙に、セリーヌすら気付いていなかったのに、盲目の彼だけが気付いていた。
◇◇◇◇
ルーカスとステファンの祖父、つまり前国王陛下は好戦的なタイプで国の領土拡大に熱心だった。ルーカスとステファンの父、現国王陛下が即位した後も政治への口出しが多く、領土拡大のことばかりを考えていた。当時は諸外国との戦争も多く落ち着かない情勢が続いていた。前国王陛下は、他の国が手を付けていない未開発の土地まで開発しようとした。
しかし運の悪いことに、その一つが魔女が支配する土地だった。魔女からの不興を買った前国王陛下は呪いを受けた。それは『一番大切な者を苦しめる呪い』。その頃、現国王陛下と第二妃の間に授かった、生まれたばかりのルーカスが呪いの対象となってしまった。それから二十年、今でも呪いは続いたままだ。その後、すぐ前国王陛下は政治の世界から退いた。
ステファンが生まれた後、殆どの国民はステファンが次期国王陛下だと、すぐに王太子に指名されるのだと考えた。第二妃の子どもであり、また魔女の呪いを受けたルーカスに国王の荷は重いと思われたからだ。しかし、どちらの子どもにも平等にチャンスを与えたいと考える国王陛下によって王太子の指名は、まだ行われていない。
それは、ステファンがあまりにも婚約者へ横暴であること、ルーカスがあまりにも優秀であることの二つの理由から国王陛下は王太子の決定に頭を悩ませていたためだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます