第3話



「……。」



「……。」




 セリーヌとステファンの定例のお茶会。いつもならステファンの嫌味や暴言で溢れ返っている筈だが、今回は口を開こうともしないステファンの様子を見てセリーヌは首を傾げた。




(……いつもの嫌味もうんざりだけど、こんなに静かなお茶会も居心地が悪いわね。)



 居心地が悪いと思っても、セリーヌから話題を広げようとは思わない。距離を縮めようなんて想いは、とうの昔に諦めてしまった。静かに美味しいスイーツを楽しもうと、フォークを握り締め婚約者を風景扱いすることを決めた途端ステファンは酷い形相で重い口を開いた。




「セリーヌ……お前は会話を楽しもうと言う気は無いのか。」



「そう思われるのでしたら、ステファン様からお話してくだされば宜しいかと。」



「なっ……!」



 セリーヌは父からステファンに媚びることはしなくて良いと随分前から言われていた。セリーヌの父は娘とステファンとの婚約が解消されても良いと考えており、セリーヌの思ったままに交流することを赦してくれている。



「これまでステファン様には酷い言葉しか言われていませんもの。今さら仲良くなろうなんて考えると思いますの?」



「……っ!それは、お前が俺の婚約者に相応しくない身なりをしているからだろう!その小さな目も!ソバカスも!赤い髪色も!どうにかしろと言っているだろう!」



 それは、いつもと同じ言葉だった。だが何回、何十回と掛けられたその言葉がセリーヌの心に蓄積され、とうとう限界を迎えてしまった。



「……そこまで仰るなら、他の方と婚約されたら良いでしょう。私にはステファン様の婚約者は務まらないようですから。」




 ひやりと冷たい言葉を投げかけると、セリーヌは立ち上がりステファンに背を向け歩き出した。



「……っ、セリーヌ、セリーヌ!」



 ステファンの声はどこか遠くで聞こえていた。






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