「生きて、帰ります」
「…ったく、なんで俺が戦地まで出向いて…」
「すみません。僕の勝手な判断で…」
「金さえありゃ治療はすんだよ。ただそれを望むなら患者を持ってこいっつってるだけなのにあのリング女は何一つ聞きゃしねえ」
「あはは…」
彼がわざわざ危険なこの戦場に来たのには理由があった。人情云々ではなく、ただの損得勘定ではあるのだが。
(…何故、心做や血走はこいつを前で戦わせたがるんだ?守りきらなければ、俺等が殺されるっつーのに。一人でこの世界を歩き回るには、余りにも未熟なのに)
怨野から[赤連]への依頼。早い話、系糸を守れなければ[赤連]の首が文字通り飛ぶ。それは、実際に加入していない療病や震奮も例外ではない。
「ありがとうございます、療病さん」
「…終わったか?」
別方向からの声。
「あ、収川さん」
「良かったぜ、ちゃんと人の判別はつくみてーだな。ま、だからってこの
収川の目線を系糸が追った。
「え…?」
散乱した無数の、かつて人型だった物の部位。染み込んだ血と倒壊した幾多の建物、死屍累々と形容するに相応しい光景の遥か後方に、多数の人が残っていた。
「あいつらはさっきの爆発に巻き込まれなかった[
「問題?」
「さっきの爆発でこっちの人員が削られまくったんだが、相手はまぁ当然ピンピンしてる。しかも銀製武器持ちだ」
壁に寄りかかっているようなポーズで、収川は話を続ける。
「刃血鬼特効の武器を持った体力MAXの有象無象vs消耗しているが粒揃いの軍団じゃ流石に前者、あいつらに軍配が上がる…が、それで逃げたら死んでった連中に示しがつかねえ。あいつら、まとめて殺してくれようか?」
口調こそ先程と変わらないが、系糸が恐怖で青ざめるほどの怒気。
「…とはいえ、こっちにも系糸が集めた銀製武器が40個程ある。残ってる戦力は55人、ギリギリ足りねえがまぁセーフだろ」
「いや、54人だ。系糸はこのまま帰らせる」
療病が口を挟んだ。
「おい、療病。どういう冗談だ?こいつはもう完治してんだろ?」
(…チッ、口外無用って言われてるしな。どう説明したもんか)
療病は眉間に指を当て、少しの間を置き答えた。
「…あいつらは酔闇より少し弱い程度の実力。だが赤亡は以前、酔闇にほとんど大敗と言っていいほどの負けを喫した」
とっさに思いついた策は、相手の実力を偽装すること。
「前線に出ねえ後方支援のクセに、なんで敵の実力が測れんだよ。後方支援を軽んじるつもりもねえが、強さを見抜ける程の実戦経験は無いはずだ」
「……」
沈黙する療病。
(ダメだ、こいつ無駄に勘がいい。どうにかして打開…)
「しかもお前、ヒーラーってより街の宿屋だろうが。後方支援どころか絶対に戦闘に参加しないポジションなんだから、分かるほうがおかしいんだよ」
「街の宿屋はこんな戦場に来ねえだろ!?俺だって多少は戦えるわ!いいから赤亡を――」
収川が療病を手で制す。
「…分かった、もう勝手にしてくれ。残った[白虎十字軍]が一斉にこっちに来てんだ、ごたごた言い合ってる場合じゃねえんだよ」
「え、収川さん?」
「うし!ほら、帰るぞ赤亡!」
療病は系糸を担ぎ上げようとするが、系糸がそれを強引に振り払って脱出した。
「いやいや、なんで僕だけ帰らされなくちゃいけないんですか?」
「テメエが死ぬと…[赤連]のメンバーが困るだろうが」
「悲しむ」とは言わない。あくまで、彼の死によってもたらされる事象に対して「困る」のだ。嘘はついていない。
「僕が欠けたところであの人達が困るなんてことあります?それに――」
強い眼差しで、赤亡は言い放った。
「もう、下手は打たない。自分を犠牲にするつもりもない。死ぬなんて仮定は不要です」
踵を返し、続ける。
「収川さん、武器を下さい」
「ほいよ」
収川が血刃を放り投げる。刃術の効果で、彼が「収納」した物は全て、彼の血刃に封印されているのだ。
「ちなみに、この血刃に封印されてる武器種はなんですか?」
「剣だ。一応銃火器もあるが、使えねえだろ?」
言いながら、自分は自然な動作でハンドガンを構えた。
「…と、まあそういうわけです、療病さん。さっきは血迷いましたが、今は違う。生きて、帰ります」
系糸は収川の血刃を前に突き出した。
「解除。銀部分に触れんじゃねえぞ?」
「分かってますよ。じゃあ、決戦と行きましょうか」
次の更新予定
刃血鬼 黒曜石/Omsick @Obsidian5940
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