万瑠飛の大火
S県。地方都市ではあるが賑わっており、県内全域へのアクセスがいい。住むならば実に理想的なこの環境は、当然刃血鬼にとっても同じことだった。
―2020 11/27 07:55
「なんで隠れてんだよわざわざ…走ったほうが早くねえか?」
地下鉄駅構内。血刃を回しながら、怨野は頭を掻いた。
「ま、どうせ来るだろうし」
ホーム柵を軽々飛び越えて、レールに乗る。
「奴はどこにいる?」
〈今から来る列車だ。
「腕交差させながら窓ぶち破るあれか。ずいぶんと楽しそうだな」
トンネルの奥の方から、光が漏れ出してきた。
「じゃ、出陣と行こうか」
怨野は前傾姿勢を取り、レールを全力で蹴った。そのままタックルすれば数人は殺せそうな勢いで駆け抜け、体を丸めながら空中に飛び出す。
ガッシャーン!と爆音を鳴らしながら、怨野は列車内へと侵入した。
「完全隠遁状態。さーてェ、やってやりますかね」
破片が飛び散るが、運転手には当たらない。怨野の姿も見えてはいない。
乗務員室のドアを蹴破って向かった先は一号車、乗客はすでに全員血まみれだった。
「…駄目だったか」
ため息をつき、同じような惨状を描いている二号車も通過。三号車のところで目標―――
「あら、ドアを全部蹴り破ってくるなんて、ずいずんと荒々しいじゃない」
「お前の殺し方も杜撰じゃねえか?死体が乱雑に積み重なってやがったぜ」
「ふふっ、片付けは苦手なの。こうやって――」
手首の脈付近から二本の血刃を引き抜き、円火は順手で構えた。
「まとめてえい☆ってやるのも一興よ?」
「その意見だけには同意してやるぜ。お前みたいなブスがやっても、ちっとも可愛くはねえけどな」
「生意気ね。焦がされたいのかしら」
円火の血刃から炎が吹き出す。
「沸血。なんでもいいわ、手始めにこの地下鉄を燃やし尽くしてあげる」
―――
〈続いてのニュースです。本日早朝、S県の万瑠飛駅にて、大規模な火災が発生しました。調べによると、死者170名、重軽傷者13名、行方不明者0名。発火の原因は車両内と見られ、警察は捜査を続けています〉
――少年。君の父さんを殺した犯人を知りたくはないかい?
ありきたりなセリフで、男は彼を誘った。
一週間後の夜、彼らの侵攻が開始する。
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