VS.定目
「て…
赤亡の任務受注後、自らも受注した血走は、刃術の加速を利用し飛行していた。
「…気配?」
名字が読めず苦心していた状態から一転、輪の射出方向を変更し急降下。標的の死角と予想される場所へ逃げ込んだ。
「どっかで刃術が発動されたね。近くだし、多分標的だと思うんだけど…もしかして、バレた?」
熟練した武術家が殺気を感知できるように、刃血鬼も同じく刃術の発動を感知することができる。血走もまた例外ではなく、おおよその方向を特定することができた。
「成務票が示した場所は何故か上方、この辺はビル群…ちょっと待って?都心付近に誘い込まれた?」
酔闇との戦闘以降数時間が経過し、時刻は深夜3時。にも関わらず、未だ一定数の人が行き交っていた。
「…お腹減ったし、吸血でもしよう。強制サーチの刃術でもない限りは安心だし」
刃血鬼の吸血方法はシンプル。相手の血を血刃に貯め、紋傷に刺すことで成立する。相手に傷は残らないが、しばらくの間かなりの痛みが生じてしまう。
「でも飲みたくはないな、クスリとかが配合された汚い血は」
当然だが血は健康体のほうが味はいい。薄味なら痩せ型を、濃い味なら肥満型と一応バリエーションもあるため、人間だった時の意識を全て振り払うという条件下ならば、むしろ良質な食事である。
「ごめんねー。んじゃ、いただきまーす」
丁度良さそうな少年を見つけた血走は、目を輝かせながら、血刃を突き刺した。
―――
「あ"ー、吐きそう。なにあれ、依存性あるの?」
悪態をつきながら、吸血した相手を蹴り飛ばす血走。
すこぶる不味いのに、気づいたら数回は吸血していた。腹八分目どころではなく、既に満腹なのだ。
「なんであんなもん沢山摂っちゃったんだろ。任務終わったら、死体撃ちみたいにゲロぶち撒けてやろうかな…ま、十割血なんだけどね」
一人で冗談を呟きながら、急上昇した。体は重く、気分も悪い。コンディションは最悪と言ってよかった。
「標的はあれかな…気持ち悪いままで戦うのは御免だけど、そろそろ夜が明けちゃうし急がないと」
血走は一気に加速し、「おらー!」と標的めがけて突撃した。
単純で幼稚な攻撃方法だが、場数を踏んでいる彼女は当然、何の策も無しにこの行いに出た訳では無い。
そもそも彼女の刃術は加速であり、連続で輪をくぐり続けると、相手の実力次第では視認ができない程のスピードとなる。
並の刃血鬼ならば一撃必殺。耐える、或いは躱したのならば手練れ。相手の力量を測る一種のボーダーラインと、彼女は決めてた。
「失礼するよ!」
ビル屋上で佇む男の横腹に、超高速の突進が命中する。
「だr――」
ドスッ、と、もはや鈍器でしか鳴らないような音が響き、男は大きく吹き飛んだ。
ガン、と柵に当たったところで、男は意識が少し遠のいた。
「なんか言おうとしてなかった?」
近寄る血走。男は呼吸が荒くなっており、その瞳は恐怖に震えていた。
「ま、いっか。君の名前、能力。自白してくんない?あれ読めないんだ」
「……」
応答もできない状態にある男だが、彼女は容赦なく問い詰める。
「君も知ってるよね。「罪狩りと戦闘した場合、勝敗に関わらず、自己への成務票はリセットされる」。君は前回の交戦の後、更に人間10人を殺してる。そこで止めてればこうはならなかったのにね」
「――ッ…!」
歯ぎしりをする男。
「ちょっとモヤモヤするし、ちょっと名前だけ教えてよ」
「言ったら…助けるのか…?」
「いいから」
男の言い分は無視し、少し低めの声で主張する血走。
「さ…
「おっけ。んじゃ、バイバイ」
有無を言わせず彼女は、定目の首を鮮やかに切断した。
「あースッキリした…いや、してない」
背伸びし、帰ろうとした血走は振り返る。
「頭、なんか刺さってない?」
定目の頸動脈付近。彼女の物ではない血刃が、突き刺さっていた。
「一瞬チラッと見えてたけど、形状が違うよね。ま、いっか。引き抜いたら何が起こるか分かったもんじゃないし」
彼女がそれを投げ捨てたときだった。
「…へ?」
直後、背後より閃光が迸る。
(なるほどね…ファイナルアタック的な」)
定目の死をトリガーとし、爆発。彼の盟団が仕掛けたか、或いは第三者か。
(この距離じゃ逃げられない。死にはしないだろうし、釣られてやろうかな)
血走は、ビルが半壊する程の爆発に身を委ね、空へと投げ出された。
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