刃血鬼の法

「実は余程のことが無い限り団長は動きません!」

「話が見えてこないんですけど…」

 鬼神府N区支部。何の邪魔もなくここまで来れた赤亡は、盟団のことについて血走と話していた。

「階級高すぎて団長、動けないんだよ。難易度と噛み合ってないからね」

「でも、血走さんが殺しに行っても同じじゃないんですか?生半可な罪競いじゃどのみち…」

「私も一部受けられない場合があるからね。団長に付き添って会議に出たりもしている」

 血走はそのまま、刃血鬼の法について話しだした。

「私達罪狩りが介入する…つまり成務表が出現する条件は――」

「ちょっと待ってください。団長、以前成務票作ってましたよね?」

「あー作れるよ。それとは別に、鬼神府に定期的に出現するのがあってね」

 逸れた話を元に戻し血走は解説を再開した。

「成務表の出現条件は2つ。一つは「異常に階級が違う罪競い同士が戦闘し、強いほうが弱い方を殺害した場合」。もう一つは「人間を殺害した場合」」

 系糸は思い当たる節が合った。あの日、周囲の人間を大量殺害した男…彼の罪は一体どうなるのだろうか。 

「前者は「弱肉強食だけど極端な弱いものいじめは酷いから裁くぜ」って言うモラル的な物、後者は「何の能力もない一般人殴ったら駄目だから裁くぜ」っていう至極当たり前のルール。人間に直せば分かりやすいかな」

 理解した赤亡は尋ねた。

「あの時の…僕の人生を滅茶苦茶にしてきたあの男は」

「あれは…ちょっと複雑な事情があるんだ。なんとも言い難いんだよ」

「そう…ですか」

 血走は足を止めた。

「どうかしました?」

「掲示板。着いたよ」

 目を見開き、絶句する赤亡。

「これ…全部成務票なんですか?」

「そだけど?」

「…え?掲示壁の間違いじゃなくて?」

「ははっ、確かに板じゃないよね、もはや」

 それもそのはず。部屋にあったのは、板と言うには似つかわしく無い、おびただしい数の成務票が貼り付けられた壁だったのだ。

「安心してよ。何も特定の成務票を探し出せって言うわけじゃないんだから」

「いや、一応罪狩りって[赤連]以外にもいるんですよね?」

「いるいる。全然いる。それがどうかした?」

「…多く、ないですか?」

 区単位で、しかも抑止力である心做がいるにも関わらず、壁一面を覆い尽くす量。赤亡が疑うのは当然だった。

「まっさかー!かなり、どころか世界級に少ないほうだよ?酷いところだと数部屋使ったりとかね。日本っていくら平和って言っても犯罪がゼロなわけじゃないでしょ?それと一緒だよ」

「数部屋…あれ、そもそも刃血鬼って何人いるんです?」

「んー、詳しくは知らないけど、人間のおおよそ1/5くらいだったかな」

「想像よりもだいぶ多いな…」

 赤亡の予想では、多くとも1000万人を下回っているはずだった。根拠は一つ、伝承の存在である点。不可視であることを鑑みても、宇宙人や幽霊に比べ、目撃証言があまりに少なすぎる。

「基本的に人間には見えないからね。あっちからすればほぼ別世界だし」

「見えない?」

「あー、後で説明するよ。とりあえず成務票、取ってくんない?」

 脱線した話を元に戻し、成務票を取ることを促す血走。

「あー…はい」

「難易度は成務票に書いてあるから、選んだのを震奮の時みたいに突き刺せば完了」

「わかりました」

 説明を受け、数秒の沈黙の後に赤亡は選択した。

「“牙抜封太”、難易度2。これで行きます」

「だいぶ簡単だね。いいよ、初任務ならむしろ適正レベルだし。んー…私も殺りたくなって来た。何かいないかな」

 目の色が変わった血走を見て、赤亡はそそくさと逃げ出した。

(獲物を狙う目だった、仮に敵だったら…考えたくないな)

 嬉々として殺しに来る。そんなパラレルの世界が見えた赤亡だった。

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