VS.大宮
長い口上を叫ぶが、[赤連]の自然は冷たい。
「あんたらが先に手ェ出したんでしょ?ねえ赤亡」
「え、あ、はい。歩いてたら急に喧嘩を売られて」
「喧嘩を売られたら買うんかお前はァァァ!」
「こっちは追い回されてるんです!ただの逆恨みじゃないですか!」
「…チッ。おい、表出ろや」
「…?」
赤亡は、自分に言われているとも知らず、心做に目で訴えかける。
(怖いんですけど。何なんですかあの人…ていうかあの人たち)
「聞いてんのかァァァ!!お前に言ってんだよ割れメガネ!」
「どうすんの団長。赤亡がタイマンの申し込み受けてる」
「大丈夫だ。あの男は酔闇より全然弱い。勝てないにせよ負けることはないだろう。それより…メガネを買い替えてやらんとな。むしろそっちの方向に頭を使ってしまう」
赤亡が戦闘することが前提の会話である。
「どうする赤亡。お前ならば負けることはありえないはずだ」
「…受けろ、ってことですか?」
「そうだ。断言しよう、彼は酔闇よりも遥かに弱い。酔闇相手にある程度戦えるお前ならなんとかなるはずだ」
「…分かりましたよ」
「そうかそうかァ…お前、赤亡って言うんだなァ?」
「え?はい。そうですけど、あなたは?」
「…
―――
「そうだ赤亡。今更だけどさ、人間から不可視になる方法なんだけど」
「はい」
「自分の意志で思ってればオンオフになるから。人の目の前に出て避けようとしてこなければ見えてないって証拠だし、試してくる?」
「別にいいですよ。勝負放りだしたらまたあの大宮とか言う人がキレそうじゃないですか」
「おっけー。負けそうなら私があいつ殺すから安心して」
(…僕めっちゃ卑怯じゃないかな。バックボーンが強すぎるんだけど)
中々に理不尽な状況だが、こんな状況でもフェアプレーのことを考えていられる赤亡のメンタルは、やはり強靭であった。いや、酔闇との戦闘を経て成長したというべきか。
「じゃ、始めようかねェ!」
アリーナは[赤連]本拠地付近の通り。この勝負を引き受させた心做には、ある思惑があった。
「あの男が赤亡に負ければ、暫くの間はここに攻めてくることは無くなる。ある程度強くなったところで、強引にこちら側で盟団を吸収すれば、確実に盟団を大きくできる」
「つまり、「赤亡は強いけど俺達はもっと強いぜ?お前らじゃ敵わないぜ?降参しな」ってことでしょ?」
「なにか問題でも?」
「赤亡にそれを背負わせないであげてよ」
「違う。ある程度拮抗していたほうが強くなりやすいんだ。高校球児の目標はメジャーリーガーに勝つことよりも、レギュラー入りしたり、より腕前を高めることのほうが先決だろう?」
特に上手くもなんともない例えを挙げる心做。
「潰してやる!
(…能力は血刃の巨大化、と。でも…)
「これなら見切れる!」
赤亡は初手、垂直方向の振り下ろしを躱す。
(質量は同時に増えるはずだ、じゃないと巨大化のたびに密度が減って、そのうち風船みたいになるはず。けど、そうなると…)
大宮の血刃は現在、2m程。しかし、いくら刃血鬼が並外れた力を持っているとはいえ、あのサイズは単純計算で100kgを超える。そのうえ、持ち手のサイズは変わっていない関係上、てこの原理で重い上に折れやすいという問題が浮上する。
(漫画とかじゃよくある話だ。時間止めたら何も見えないし動けるわけ無いのに、それらを全部無視していい感じに効果が出る、謂わばご都合能力。多分大宮の刃術はそういうものなんだろうな、って予想したりして)
予備動作、振り。通常と同じ速度だが、言ってみれば巨大化しただけ。本体である大宮が強くなったのでは無い。酔闇とは訳が違うのだ。
(とはいえこうやって避け続けるのも考えものだね…よし)
「このままあなたのペースに呑まれるのも嫌だし、そろそろ僕からも手を出させてもらいますね」
血刃を引き抜き、左手の平を切りつけた後、投擲。
(このガキの血刃くらいなら――)
「耐えれる、なんて考えたりしてるんでしょうけど…浅慮ですね」
「あ…?舐めてんのかクソガキがァァァ!!」
敢えて血刃を外し、障害物のない方向へ飛ばす。
(間合いは2m前後。少し距離を取る関係上、繋げるタイミングは2.5から3m程離れた時かな。問題は…)
「足りねェみたいだな…教え込んでやるぜ、刃血鬼の世界をよォォォ!!」
周囲の気温が上がる。
「え?ここまでやる?」
「いくら彼が馬鹿とはいえ、こんなところで沸血なんて使うもんじゃないだろうに」
観戦者二人が困った様子を見せるが、赤亡は違う。浮き出る血管、紅潮する全身、彼はこの状態を見たことがあった。
「…テメェらまとめて皆殺しだァァァ!沸血!」
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