危機一髪
(当たったッ!)
傷口を手で塞ぐ酔闇。
(今のうちに逃げ…)
足を踏み出した刹那。
がくん。と、赤亡は膝から崩れ落ちた。
人間は1リットル以上の血液を失うと、命が危うくなる。故に貧血という、分かりやすい形での、体からのアラートが存在する。
(足が…動かない)
手を抜かれていた初戦とは違い、明確な殺意を持った敵との相対。幾度も刺された故の流血。それら全てが重なり、赤亡の体には深刻なダメージが蓄積していた。
「なら…這いつくばってでもッ…!」
革靴で歩いてくる音。
「こレだかラァァァ…ガキは…嫌いナんだよォォォォ…!」
赤亡の表情は絶望に歪んだ。
―――
赤亡が一矢報いる数分前。
「…ねぇ」
「言わずともわかる。吸血にここまで掛かるものか?」
「今ってさ、中年のオッサンが居酒屋から帰宅するくらいの時間帯じゃん」
「…まさか」
「一人いるでしょ、酔闇ってやつ。あいつに遭遇したのかも」
「…奴が所属する盟団[巨刃織]はここからすぐ近くに拠点がある。あり得るとすればそれが濃厚かもしれん」
「やっば、助けに行ったほうが――」
彼らは感じた。何者かの沸血を。
「…これさ」
「本当にまずいかもしれない。血走、行ってきてくれ」
「団長はどうすんのさ!」
「巨刃織の連中がここに来るかもしれない、私は居残らせてもらう」
「常套句にしか聞こえないけど…分かった、行ってくるね!」
―――
「つってもどこにいるんだろ。そう遠くには離れてない気がするけど」
沸血は、発動すると周囲の者に大まかな位置を悟られる。現在血走は、それを元に赤亡の存在を探している途中だった。
「ここ大通りでしょ?わざわさ細い路地に逃げ込んだりするかねぇ」
自身の刃術、
「えーと、あれかな。相当まずいんだけども」
赤亡と予想される人物を発見し、冷や汗をかく。
「うー…んと、ボッコボコにされてるよね」
冷や汗の原因はここにある。
周囲には大量の血痕。赤亡と予想される人物は傷だらけ。対し敵であろう巨漢は殆ど無傷、血痕の量を見て判断するのなら、彼は今血刃の使用もままならない程の出血をしているはずだ。
「ま、いっか。とっとと助けるに越したことはないね」
血走は肩の紋傷から、血刃を引き抜いた。胸元に構え、下方向へ加速する輪を出現させる。
「間違っててもいいや、一発刺すだけだし、死にはしないでしょ」
方向を横に変え、低空飛行のような状態で更に加速する。
「はいそこ、一回離れてくれない?」
速度を維持したまま、血走は巨漢の太ももに血刃を刺す。同時に輪を起動し、巨漢を前方へ吹き飛ばした。
「…血走、さん?」
「よかったー、やっぱ赤亡であってたか。とっとと帰るよ、下手したら死ぬから」
血走の声は。
安心ゆえか、もう既に赤亡の耳には届いていなかった。
「…死んだ?待って待って待って、急がないと!」
―――
「…今日は一緒じゃないのか、心做」
「仕方ないでしょ、急ぎだったんだから。この子が死んだらまずいんだよ」
「事情は良く知らんが、割と重症だぜ?結構高めに取るけどいいか?」
「別にいいよ。あの人が何か買ってるとこ見たことないし、買ってたとしても私達へのプレゼントだったり、治療費だったり」
「身を粉にして自分の部下へ…これ以上ない上司だな」
「駄弁ってる暇はないよ。いいからさっさと治療してくれない?」
「心做呼んどけ、その場で払ってもらわねえと気が済まん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます