二章 [巨刃織]
遭遇
「…送り出されたはいいものの」
震奮との戦闘から約2時間後。時刻は午前3時を回っている。
「…なんだっけ、血刃を首筋のとこにグサって」
赤亡は怨野と見た映画を思い出す。
「要は吸血鬼がいつも噛みついてるあの箇所を刺せばいいのかな」
赤亡は物騒にも、血刃を手に持って人を探している。当然のことだが、彼の服は血塗れ、傍から見れば刃物を持った不審者である。
「…待てよ?」
赤亡は気付いた。
心做は気配を消す方法があると言っていたが、彼はそれを全く教わっていなかったのだ。
「…」
まずいと勘付いた赤亡は、自分の服を見て絶句した。
「…どうしよ。いやでも高校とか家族からしたら行方不明だからな、僕。逃げ切ったらなんとか」
どう処理されているのかに疑問を感じつつ、天を仰ぐ赤亡。
自身が血刃を持っていることには気付かず、そのまま歩みを進める赤亡。
「〜@#$%&*€£※∆∅!」
(うへぇ…)
全く聞き取れない、意味不明な言語を口走る中年男性とすれ違った。いや、すれ違ってしまった。
(あぁいう大人にはなりたくないなぁ…)
赤亡が引いていると、
「あ"あ"ん?おぉーまえよく見たら刃血鬼け?よぉわそーだなぁ」
その男が、酩酊しながら質問してきたのだ。
男が発した刃血鬼と言うワードに、赤亡は戦慄する。
血走が言っていた典型的な酔っぱらいだ。頭にネクタイを巻き、片手に包みを持っている。
(…確かに僕は震奮と戦闘したけど、あれはあっちが手加減してたんだ。本来僕が挑んで勝てるものじゃない!)
敵か味方か測りかねるため、赤亡が硬直していると、その男は唐突に拳を突き出し、赤亡の顔面を殴り飛ばした。
「…ッぁぁ!」
赤亡は咄嗟に、手に持っていた血刃を投げつけた。
そして即座に紋傷から二本目を引き抜き、何の躊躇もなく右腕を切り落とした。
「なぁぁにぃぃ?」
一本目は外したが、赤亡の狙いはそこではない。
背後の街路樹に飛ばし、高速で移動。
「初対面でいきなり殴ってくるなんて…」
三角飛びを応用し、街路樹を両足で思い切り蹴る。
「一人でどうにかするべきじゃない。一回戻らないと…!」
切断したままの右腕をビルの屋上へ伸ばし、赤亡は素早く上へ逃走した。
「…おぉーまえ、酔拳て知らねぇかぁぁ?」
酔拳。カンフー映画で有名な、酔うほど強くなる拳法のこと。本来は酔っているような動きをするだけだった事も含め、映画好きの赤亡は知っている。
故にその頬を冷や汗が伝う。男は完全に酔っており、そこで酔拳というワードが出た。ということは、男が持っている能力は「酒によって強化される」と思われるからだ。
「うぅ…刃術って身体強化もあるのかな。でも血走さんのは攻撃じゃないし」
「…ぼぉそぼぉそ呟イてんナよォ…お前ガしゃぁべっテいイのはアア…こぉノ世への別レだけダァァァ!」
男は目を血走らせ、体中の血管が浮き出した。
「やばい…どうしよ」
既に人間ではないが、どんどん人間離れしていくその姿を見て、赤亡の冷や汗は増えていくばかり。
「
男は叫ぶと、その瞬間、凄まじい熱量が辺りに撒き散らされた。
浮き上がった血管は肥大化し、今にもはち切れそうな様子。体皮は真っ赤に染まり、全体が紅潮している。全身に熱気を帯び、体からは湯気のようなものが見えていた。
「いや…阿修羅かなんかなの…?」
その光景に赤亡が怯んだ隙を、男は見逃さなかった。
「…ッ!?」
気付けば男は眼の前にいた。そして―――
「…血刃…!」
眼前に突き付けられたのは男の血刃だった。
「
酩酊し徘徊す暴力の化身は、猛り狂う。
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