彷徨う心
「——何で、俺なんだよ」
「なんで——? それは簡単だよ。ユーリス君も思い知ったでしょ? 騎士団がどれだけ腐りきっているかを」
——たしかに、それは思い知った。
アイツらは自分たちが守られたいだけだと。
騎士という、人を守る立場だからこそ優遇される特権を、何の苦労もなく受けたいだけの奴らだと。だからこそ、殺そうとした。
「だからユーリス君はアイツらを殺そうとしたんだよね? だったら、僕たちの目的は一緒だよ! 神魔教団は、ボルガンド王国を魔物によって滅ぼそうとしてるんだから!」
プリックには俺以外の人間でも見えているのか、演説するように両手を広げて話し始めた。
「騎士団だけじゃない、教会も、王国も、王も——! 全部壊すんだ‼ ……かつてアイツらがそうしたようにねぇッ‼」
「——大層な目的だな。……だが、俺は王国を滅ぼすことに興味はない。勝手にやってろ」
弱い奴に価値はない。そして……俺はクルトに負けた。
学園を退学になった以上、騎士団長どころか、騎士になることも出来ない。
——そう、今の俺には何の価値もない。
「それでいいの? これはユーリス君の為でもあるんだよ? ……多くの人間は事実を見ようとしないって——君もそう言ってたじゃないか」
「……何を言っても無駄だ。力のない俺が今更、何をしようと意味はない」
吐き捨てるようにそう言い、プリックに背を向け歩き出した。
「——じゃあな。俺は元居た場所に帰る」
「————はぁ。どうやら何を言っても無駄みたいだね」
随分とわざとらしく長い溜息を吐き、プリックは「もういいよ」と呟いた。
「帰るって言ってたけど……今、地下公道を使うつもりなら止めておいた方がいいよ。——神魔教団が魔物を放ったから」
「……脅しのつもりか?」
「いや? ……友達としての忠告だよ。ユーリス君」
その一言をもってしてプリックは俺に別れを告げて、俺はコロッセオを後にした。
◇
寮に制服を返し、俺の住んでいた孤児院がある、エンタル大都市と王都を結ぶ地下公道の入口にやってきて、俺の足は止まった。
地下公道の入口は騎士団員によって封鎖され、辺り一面、通行止めを食らった人で溢れかえっている。
——おそらく、リックの言っていたやつだろう。
「なぁ、港の方はどうだった?」
「ダメだ……。シーランス港方面の地下公道にも魔物が出現してるらしい——」
そんな会話が人混みの中から聞こえてくる。どうやら一つの区間だけではないらしい。
王都から行くことの出来る三大都市への地下公道は、全部魔物が出たとみて間違いないだろう。だが——、
「——今の俺には関係ないな」
地下公道が封鎖されているのは関係あるが、その事態を解決する責任は俺にない。
なにやら、学園の生徒たちが集合を掛けられているのが見えたが、今の俺は学園生でもない。集合する必要も無ければ、必要ともされてない。
だから俺は、近くの建物に寄り掛かって、大人しく事が終わるのを待つことにした。
「……お前も行かんのか? ユーリス」
——その声が耳に届くまでは。
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