表と裏
「リタ…… ?帰って来たのか…… ⁉」
シラを担いだまま、村の様子を眺めていると、一際大きい家から初老の男が出てきた。
どことなくリタと顔が似ているということは、父親か何かだろう。
「今までどこに行っていたんだ‼ 村の外には出るなとあれほど言っただろう‼」
その父親らしき人物が唐突に説教を始めた—— のはいいのだが、違和感を感じる。
「おい…… ちょっと待てよ。アンタらがリタに助けを呼んで来いって頼んだはずだろ? 違うのか?」
「—— き、騎士団⁉ 騎士団の方が何故ここに⁉」
「…… 俺は騎士団じゃない。そんなことより、さっき俺がした質問に早く答えろ」
「口悪すぎでしょ、きみ」
—— さっきまでビビり散らかしていたというのにこの女は。
肩に担がれたまま、俺の頬をつねりながら口調を指摘するシラを地面に落として、父親らしき男に会話を進めるよう促した。
「えぇ、つい先日…… 。シラさんから貰っていたマテリアルが切れてしまいまして。このままだと魔物に襲撃されるとは分かっていたんです。ですが、シラさんに頼るわけにもいかず、村の者で話し合っていたところ—— 」
「リタがこの女に助けを求めに行った—— という訳か」
「えぇ、その通りです」
「—— チッ。いくら何でも間が悪すぎるだろ」
そこへグロウハウンドの襲来が重なってくるとは。災難が畳みかけてきている。
「なんでグロウハウンドが、王都の付近に出てきたのかは知らないが…… ひとまず俺はあれを討伐しに行く。アンタらは家の中で籠っていろ」
「い、いいんですか⁉ 私たちも何か手伝いを—— 」
「要らない。むしろ邪魔だ」
戦えない奴が戦場に来たところで足手まといになるだけだ。
それに、命を落とす可能性だって跳ね上がる。だったら、安全な場所でじっとしていてもらった方が遥かに良い。
「—— それと…… リタ! 俺があの魔物を相手にしてる間、村は無防備だ。ゴブリンやらが襲ってくるだろうが——その程度、自力で倒せ」
言い切って、道中ゴブリンの死体から取ってきた棍棒をリタに放り投げる。それを受け取ったリタは「わかった!」と大きく頷いた。
「—— よし」
—— これで、邪魔が入ることなくグロウハウンドと殺り合える環境になった。仮に負けたとしても、「環境が悪かった」などという言い訳は許されないという訳だ。
「そんな言い訳、必要ないけどな」
—— 無論、俺が負けるわけがない。
あくまで、逃げ道を絶つための理由に独り言を呟きながら、グロウハウンドとの殺し合いに意識を集中させた。
◇
——王都で遠吠えを聞いてからおよそ三十分くらいだろうか。
村から離れた所の樹に上り周囲を観察しているのだが、グロウハウンドの巨体が見当たらない。
そもそも、樹が生い茂っているせいで見通しが悪い。殆ど樹しか見えないくらいだ。
それでも、グロウハウンドくらいの巨体であれば樹が揺れたりするものだが—— 。
「—— ねぇ、木登りしてまで何探してるの?」
「…… アンタ、なんで付いてきてんだよ」
—— 足手まといが一人、付いてきているだけだ。
「なんでって…… 村の方には私、必要なさそうだし」
「—— 必要ない?」
「…… そ。村はリタと村の人たちが守ってるから私の出番ないの」
木の上でしゃがみ、膝の上に頭を乗せて口を尖らせるシラ。当初の想定通り、シラはまともな戦力にならなかったらしい。分かりきっていたことだ。
—— だが、この女には戦力にならなかったとしても、明確な役割があるはずだが。
「回復魔法があるだろ。それで負傷者を治せよ」
王都で「連れて行って」と言われた時、シラが回復魔法を使えるから連れてきたのだ。回復魔法があれば、そう簡単に死ぬこともないだろうから。
だが、それを聞いたシラはその表情を曇らせた。
「言ったでしょ。そのことは秘密—— 誰にも言わないでって」
「他人に知られたからって減るようなものじゃないだろ。何をそんなに隠そうとしてるんだよ」
「———— 」
回復魔法の使い手ということがバレたとしても、何も問題はないはずだ。
——だが、シラは押し黙り、自分の膝に顔を埋めて表情を隠した。
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