「秀才」と「聖剣」
——聖霊という、普通に生きている限り滅多に見ることのない存在。
そんな存在が目の前にいるとあって、騎士学園の入口は大変な騒ぎになっていた。
だが、それなりに大きな騒ぎになっているというのに、クルトは見向きもせず頭の近くに浮いている存在と会話している。
いわゆる、二人だけの世界に入っている—— というやつだ。
「おい、お前の頭の近くを浮いてるソレは何なんだ」
「—— あぁ、彼女は聖霊さ。この剣に宿った聖霊『アクエリオス』だよ。アリスって呼んでいるのは、僕がつけたあだ名みたいなものさ」
クルトがそう言うと、アリスと呼ばれた聖霊はその小さな体で軽く一礼して見せる。
その一礼のどこに感心したのか「おぉー」という感嘆の声が上がった。
「…… それが聖霊か。初めて見た—— が、随分とショボそうな聖霊だな。全部その程度なのか? 聖剣っていうのは 。——だとしたら期待外れだ」
聖剣は使用者に強大な力を与える—— というのは常識だ。その強大な力が聖剣に宿った聖霊によって与えられるということも、当然のように広く知れ渡っている。
そんな強大な力を与える存在がどんなものか、密かに期待していたのだが—— 。
まさか、手のひらに乗るサイズの存在だったとは。しかも、人間の姿かたち。
こんな見るからに弱そうな存在が与える力など、大したことはないだろう。
「き、期待外れ…… ? 失礼ね! 私はうるとらめちゃくちゃはいぱー凄いんだから! その気になれば世界だって滅ぼせるんだからね⁉」
「世界を滅ぼす? —— はっ、面白い冗談だな。そんなに小さい体で、一体どうやって世界を滅ぼすっていうんだ? やって見せてみろ」
「い、今はまだ無理だけど…… 。全力を出せるようになったら、あんたなんか相手にならないわ! こてんぱんよ、こてんぱん!」
むきになる聖霊相手にやって見せろと返すと、水色の顔を膨らませて反抗してくる。
そんな俺と聖霊のやり取りにクルトは眉根を寄せて顔をしかめた。
「…… アリスを揶揄うのはやめてくれ、すぐムキになるんだ。—— それはそうと、君は僕に感謝するべきなんじゃないかな?」
「—— は、感謝?なんで俺がお前に感謝しなきゃいけないんだよ」
突然、的外れな感謝の言葉を要求されて、不快に感じたのが態度として出た。
「僕がもし止めに入らなかったら、君はあのまま彼を殺していただろう?そうなったら学園を退学することになってたかもしれない。そしたら君は一体どうやって騎士団長になるって言うんだい?」
「—— 勘違いしてるようだから言ってやる。俺はそいつを殺そうとしてない。ただの峰打ちだ。聖剣使いはそんなことも分からないのか?…… それと、俺は別に騎士団長を目指してない。なんなら騎士になるつもりも無い」
「…… 一応、ライバルとして心配してあげているんだけどね。聖剣使いの僕に付いて来れそうな生徒として」
こっちの話をまるで聞かないクルトに、段々と怒りが増していく。
初対面の人間にここまで目障りだと思ったのは、コイツが初めてかもしれない。
「勝手にライバルにするな。あと、その上から目線もやめろ。お前の方が弱いだろうが」
「そうか、残念だよ。—— 君のその性格は早いところ治した方がいい」
「あ?どういう意味だ—— 」
意味深に発言したクルトは、聖剣使いにはしゃぐ他の生徒たちに呼ばれ「それじゃあ、また」と残して、聖霊と共に去っていった。
—— 俺が上から目線を止めろと言ったことへの当てつけか。
◇
「ユーリス君…… 。クルト君と何を話してたの?」
「別に、大したことは話してない」
生徒の波に呑まれて揉みくちゃになっていたのをいつの間にか抜け出したのだろう。
気まずそうに俺の顔色を覗うプリックにぶっきらぼうな返事を返して、教室へと再び歩き出す。
——「クルト・パーキンス」という、ムカつくクラスメイトのことを考えながら。
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