「騎士学園」
「相変わらず…… デカい」
「まぁ、王都の中で三番目に大きい建物だからね。王城、騎士駐屯地…… そして騎士学園って感じで。…… 生徒数は凄く少ないのに何でこんなに大きくするのかな?」
校門の後ろに、山のようにそびえ立つ校舎。
二階建てのように見えるそれは中心辺りに小さな塔があり、その中にこれまた巨大な鐘が吊るされているのが見える。入学試験の時に見た時は、俺の想像する校舎より一回りくらい大きかった—— という感想を抱くくらいにはかなり大きい。
ただ、高さはそこまで感じない。何というか横に広い。
そんなバカでかい校舎が「ボルガンド騎士学園」であり、今日から俺たちの学び舎となる場所というわけだ。
「校舎がデカい理由なんて考えても仕方ないだろ。—— 行くぞ」
「いや、でも…… 気になるよ。そもそも一年制だから先輩とかもいないし、今期の生徒だって三十人くらいしかいないのに。下手したら貴族のお嬢様とかが通う学校より大きいなんて、おかしいと思うよ…… 」
「ゴチャゴチャうるさいぞ。校舎がデカいのなんて見栄えのためとかそんなもんだろ。逆に理由がある方がおかしい」
プリックにそう言って正面玄関へと歩き出す。
俺にとって、今より強くなれるかどうかのこと以外は割とどうでもいい。それが俺の目的に直結するものであり、騎士になることになんか興味はない。
それに、ばーさんが言っていたことの真意も気になる。それを確かめるのは必要だ。
そのためにも、俺によそ見をしている時間は無い。そう思って歩く速度を上げた。
—— その時だった。
「なぁ…… アイツじゃないか?入学試験の時に試験官から天才だって呼ばれた奴」
俺にかけられたものじゃない言葉が、俺たちの後ろから聞こえてくる。
その言葉に俺は、振り返ることはせず足を止めて聞き耳をたてた。
「へー、あの生徒だったんだ。てことは親無しってことじゃん」
親無し—— という言葉に思わず、そいつのことを殴りたい衝動にかられた。俺にとってはあまりに聞き慣れた、侮辱される定番になった言葉。
しかし、王都に住む人間には聞き慣れない言葉だったのか、次々に親無しと発言した生徒に向かって質問が浴びせられる。
——真相を聞きたいなら、俺に聞くべきだというのに。
「いや、詳しくは知らないけどさ。なんか、自分が天才だって周りの大人に認めさせる為に自分の親殺したらしいよ。それで孤児院行きだって話」
わざとらしく大声で言われた偽りの事実に、周囲の生徒がざわつき一斉に俺を見る。
—— 随分と話が変な方向へ飛んでやがる。
俺が自分の親をこの手で殺している訳がない。もし俺が本当に殺していたとしたら、騎士学園は犯罪者を入学させようとしていることになる。
それが理解できない馬鹿でもないだろう。つまり俺への当てつけという訳だ。
「俺が自分の親を殺した—— って言ったな、お前。それはつまり俺を挑発していると受け取っていいってことか?」
振り返ってにやけ面の男子生徒を睨みつける。
正直、今すぐにぶん殴ってやりたいところだが、わざわざ確認を取った。
俺の聞き間違いの可能性は微々たるものだが、後々「そんなこと言ってません」と言われないために対策を取っておくのが得策というものだ。
「別に挑発してるつもりは無いけどさ。でも、そんなに怒るってことは自分で事実だって認めてるようなもんだよな?」
「…… あぁ。お前の言いたいことはよく分かった。——死ね」
悪びれることもなく、さらに挑発してくる男子生徒にそう吐き捨て、俺は見せつけるように持っていた剣を鞘から引き抜いた。
その瞬間、悲鳴にも似たどよめきが巻き起こる。
「ユーリス君!アイツがムカつくのは分かるけどそれはダメだよ!全部台無しになる
よ⁉」
俺が剣を引き抜いたというのに、迎撃するつもりが無いのか相変わらずにやけ面をしている男子生徒に歩いて近寄っていると、プリックが俺と件の男子生徒の間に割って入った。
「—— 入学初日から問題を起こすのは不味いよ…… !寮の管理者に「面倒事を起こすんじゃない」って言われてないの…… ⁉」
プリックのよこを通り過ぎようとした時、俺にしか聞こえないような小声でそう言ってきた。両手を広げて俺を止めようとするプリックの腕は震えている。
プリックからしたら、自分の体格の倍くらいある相手を止めようとしているのだから無理もない。
—— おそらく俺が死ねと言ったからだろう。
多分プリックは勘違いしている。
俺は何もアイツを本気で殺そうとしている訳じゃない。ああいうバカは痛い目を見るまで学習しないというだけだ。ならやることは一つしかない。
「—— 邪魔だ」
そう言ってプリックの制止を軽く躱し、にやけ面の男子生徒へ斬りかかった。
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