第二章 何故か僕だけデスゲーム ②
彼女は、狐のような切長の目で、なぜか僕を睨んでいた。
「あなた、証人になりうるわよね。この男が、私の前に割り込んだことの」
ドキッとした。
僕自身は割り込みの後から入店したはずなのに、どうしてこの子はわかったんだ。
心の奥を見透かすような瞳で、彼女は続ける。
「どうして証言してくれないの? 不正は赦されるべきではないわ。あなたは解決手段を持っているのに、どうして声をあげないの? 事なかれ主義ということかしら?」
「ま、待ってよ。どうして僕が証言できるって断言できるのさ。僕は、今入ってきたばかりなのに」
「目と態度を見ればわかるわ。私、そういうの得意なの」
じっ……と、鋭い瞳が僕を見つめる。
それはまるで、探偵のようにも、犯罪者のようにも見えた。とにかく、冷たくて、恐ろしいのだ。
『フェリスも、この銀狐ちゃんを助けてやりたいと思っているよ。ふふん、人助けはいいことだからね』
『ドリア食べたいだけでしょ……』
『フェリスが、この二人の会話を最初から再現してあげよう。そうすれば、第三者の証人になるだろう? 光輝クンは、それをシャドーイングして発声してくれれば解決。簡単だね』
言いながら、フェリスはチーズドリアが陳列されている棚を見ていた。
興味はそっちにしかないらしい。
「……わかりました。たまたま聞こえてたんで、お二人の会話を再現します」
面倒だけど、この状況から逃げるのは難しい。僕は覚悟を決めて、フェリスに合図する。
少しだけ息を吸って、フェリスに続いて話し始める。
『「……割り込みくらいで絡むなよ。ボクは珈琲を買いたいだけなんだ」』
『「私は、
『「イカサマ? 聞き捨てならないね。ボクはレジに来ただけじゃないか」』
『「だから。私が先に並んでいたの。割り込みは美しくないわ。恥ずかしくないのかしら?」』
僕がそこまで言うと、銀髪の少女は男へ睨みを効かせる。
「これが証拠よ。あなた、第一声で『割り込み』と認めていたわね」
「こんなうわ言に証拠能力なんてありませんよ。……あぁ、面倒ですね」
青髪の男は悪態を吐くと、僕を押し退けて売店を出て行った。
「……巻き込んでしまって申し訳なかったわね」
銀髪の少女は、何事もなかったかのように店員へカルピスを渡していた。
店員は一瞬呆けたものの、すぐにレジの裏側へ戻って会計を始めた。
「お詫びではないけれど、一つアドバイスよ。これから始まる入学試験では、消極的な態度は命取りになるわ。積極的に自分から動くことね」
それだけ言って、彼女は売店を去って行った。
入学試験。
その単語が出たと言うことは、彼女も受験生なのだろう。
体格の差に物怖じしない精神力。不正は赦さない断固とした信念。僕が鍵を握っていると見抜いた洞察力。そして、恩を感じたらライバルだろうと助言も厭わない高潔な心。
常盤城高校。あらゆる分野の発展を牽引する人材を育成する教育機関。そこを目指す者はみな、何かしらの大きな目的と、そして、優秀な能力を兼ね備えている人物ばかり。
一気に不安が押し寄せてくる。
これから、彼女を含む幾人もの受験生たちと、合格の椅子を巡って争うことになるのだ。
そして、それだけじゃない。その中でもさらに限られた、特待生の枠。
そこに収まらなければ――死。
足先から冷えていくようだった。
目を逸らしていた恐怖が急に具体化したみたいで、震えが止まらなかった。
『光輝クーン。早く早く。チーズドリアを買ってくれたまえ!』
元凶の少女は、どこまでも明るく嗤っていた。
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