第4話 出会い

『くそ、何もさせるなッ! ウィンドカッター!』

『今のうちにコロセッ! ファイヤーボールッ!』


 豚たちも「これはマズイ」と思ったのか、慌ててその掌から炎や風の力をココアに向けて放つ。

 だが、ココアは手を軽く翳して……


「風……なんか自由に操れそう……えっと、バリヤッ!」

『か、風障壁ッ!?』

『お、俺の魔法が……』


 生み出した風で自分を包み込み、豚たちの放った力をかき消した。


「すげ、できたし! なら、なら、火は? これもできる? おーし、あーしの力を舐めんなし! くらえ、火を……竜みたいにして、おし!」


 好きな二次元キャラクターの技をイメージしてそれを現実に生みだすココアの目はキラキラと輝く。


「炎殺紅竜波~ッ!!」


 しかし、本人の輝く瞳とは対照的に、生み出される炎は禍々しく、激しい熱風が駆け巡る。

 その生み出された力にノアは呆け、そして……


『ほ、炎の竜ッ!?』

『炎が形を変えて……ばかな、魔法の形態を変えた……』

『ちょまっ!?』

『ひっ!? た、たす――』

『たすけ―――』


 微動だにできていなかった豚たちが五人、その炎に飲み込まれて……それが人生最後の言葉となった。


『なっ、あ、う、うそ、だ、ろ?』

『ば、ばけもの……』


 次の瞬間、森の木々は燃え、五人の豚はこの世に存在していた痕跡は「炭」となってこびり付いた焦げ跡だけとなってしまった。


「す、すげ、見たし!? ノア、見たし!? あーしの炎殺術ッ! あーし、あーし!」

「すごい……もう何がどうなってるか分かんないけど、私たちすごいよ、ココアッ!」


 最初は二十人はいたはずの豚たち。

 か弱い少女たちを性欲の赴くままに凌辱しようとしていただけである。

 しかし、豚たちは、か弱いと思って凌辱しようとしていた二人を、今では異形の怪物にしか思えなかった。


「えへへへ、すごい……ねえ、もっとできるかな?」

「わかんね。だから、試してみるし!」


 そして、先ほどまで泣き叫んでいたはずの二人の少女は興奮したように笑って豚たちを見る。

 その視線に生き残っている豚たちは恐怖の震えが止まらない。


「私たちをレイプしようとして、パンツも見て……ほんと何が何だか分かんないけど、許さなくていいよね?」

「もちだし! つか、こいつら死刑当然だし!」


 ノアとココアは今度は自分たちから豚たちへと向かって行った。


『ひいい、やめ、げひっ!?』

『ぷぎゃっ!?』

『ぱびゅっ!?』


 豚たちが潰れ、引き千切られ、燃やされ、蹂躙されていく。 

 文字通り、命が摘み取られていく。


「すごいすごい! こいつらザコザコだよ!」

「いえーい、オークのざーっこざっこざっこ!」


 そして、二人には『殺している』という感覚は無かった。

 あまりにも非現実的な力と同時に、豚たちの姿が人間ではなく、ましてや言葉も通じない相手だったからだ。

 初めは、飛び散ったオークの肉片や内臓や血に思わず吐いてしまった二人だった。

 それが今では突如身に着けてしまったこれまでの自分たちからは想像できない力への興奮と、それを使う好奇心が勝ってしまっていた。

 今では血を見ても、内臓を見ても、飛び出す眼球を見ても、ケロイド状になった豚の姿を見ても、止まらない。


「アハハハ、スゴイスゴイッ! 私たちすごいね、ココア! 私たちサイキョーだよね!」

「まぢやべーし! あーしtueeee! あーしらtueeeee! 性的搾取クソ野郎はジェンダーの鉄槌~!」


 やがて、最後に残った豚は涙を流しながら……


『あ……悪魔……』


 その言葉を理解できないために、二人は躊躇いも慈悲もなく最後の豚も潰して裂いていた。

 そして後に残ったのは地獄のような光景。

 破壊された森。

 散らばる豚の残骸。

 その中心で笑顔でハイタッチし合う二人の少女。


「って……みんな倒しちゃったけど……結局なんだったんだろうね。それに私たちどうしたのかな? それと森……なんかすごいことになっちゃったし」

「それな。……つか、この状況……ひょっとして異世界とかだったり?」

「それって、ココアがよく薦めてくるオタクくんたちの世界の?」

「分かんねーし。つか、クラスの皆とかもどこ行ったか……つか、森やりすぎたけど……でも、魔法使えたし! そんであーしら、あーしらの姿のままだから異世界転生じゃなくて異世界転移……え? でも、それなら―――」


 そして、興奮収まらぬ中、改めて二人はこの状況について話し合う。

 オタク知識のあるココアが少し真剣な様子で早口でブツブツと捲し立てる。

 だが、そのときだった。



『な……何だコレは! 一体何がどうなっているのだ! 森のこの惨状……お前たちがやったのか!』


「「むっ」」



 後ろから誰かの声が聞こえた。

 自分たちには分からない言葉というだけで、二人は振り返るまでもなく「豚の生き残り」と思い込み、ココアとノアは攻撃される前に、ヤラれる前にヤッてやろうと、身体が即座に動いた。


「も~、今は話をしてるんだから邪魔しないの! てりゃっ!」

『ッ?!』


 振り返ると同時にパンチを繰り出すノア。

 先ほどまでは、そのパンチだけで豚たちは簡単に仕留められた。

 だが……


『ぬぐっ!? ぐっ……』

「え……止められ……」


 その拳が、受け止められたのだ。


『ぐっ、速い……そして、な、なんだ、この力は!? お、重いッ!?』


 受け止めた者は、両足が地面に埋まりそうなほどの衝撃に、顔が歪む。

 だが、それでも受け止めた。

 そして……


「お……男の子?」

「うお、ノア、そいつ男の子だし! 豚じゃない! しかもノアのパンチ受け止めて……受け止めて……」


 何よりもノアが驚いたのは、豚かと思って顔を見ないで殴り掛かった相手。

 それが何と、普通に自分たちと同じ人間。男だったのだ。

 しかも、まだ幼さも感じる童顔で、背もそれほど高くない。

 ひょっとしたら、自分たちより1~2歳は年下かもしれない男が、巨漢な豚たちでもどうすることもできなかったノアのパンチを受け止めたのだ。



『ぐっ……待て、あなたたちは何者だ! そこに転がっているオークは二人が?』


「え? あ、えっと、分かんない……この子何言ってるの?」



 そして……


『僕はユーキ! ビティガウル王国所属の勇者! もう一度問う! あなたたちは何者だ!』


 ギャルは勇者と出会った。

 

「うわ、何言ってるか分かんないよぉ……だけど、なんかスゴイキリっとした顔で……それにこの子……あの豚たちと違って、なんか小さいけど腕力とか凄そうで……」

「なんか……わかんねーけど、オーラ? あーしでもタダもんじゃねーって分かるし!」


 そして……



『なんだ? 言葉が……異大陸の方か? どこの国の……ならば、翻訳魔法で……ん? ……ぶぶっ!? な、なななな、わ、ぱぱ、ぱん……ぱ、ぱん……つ……』


「え? なに? どうしたの? あんなにキリっとしてたのに急に顔を真っ赤にしちゃって……」


「つか、どこ見て……あ……ちょ、ココア! あーしら、スカート破られてパンツ丸出しで、この子、あーしらのパンツ見てるし!」



 顔を真っ赤にして慌てふためく男。


『た、たた、たわけものー! な、なんといういかがわしい格好を……し、下着を、か、隠したまえ! あう、え、えっちなのはダメではないかー!」


 言葉が通じつとも分かるものがある。

 それを見て二人は……

 


(え、かわよ……何この子……あんなにキリっとしてたのに、子供みたいに泣きそーなんだけど……すごいピュア! 絶対ドーテーだよ!)


(かわよ。つか、まぢギャップ。濡れ、え、やば、まじ胸きゅんガチ? でぃすてぃにー?)

 


 乙女の胸が高鳴った。 

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