第21話 重大発表

【こんモモー! 桜の木に実ったモモから生まれた妖精。桜木さくらぎモモーだよ!】


 ――きちゃ!

 ――待ってましたー!

 ――重大発表楽しみ!


 夜、モモちゃんの重大発表配信が始まった。

 モモナーからもコメントがワクワクドキドキ感で溢れかえっている。

 俺も同じ気持ちで、自分の部屋にあるテレビの大画面で、モモちゃんの配信画面を視聴しながら【重大発表】を今か今かと待ちわびていた。


【はーい、というわけで今日はがあるわけですが……! 重大発表は三十分後に行いまーす! 今日はそれまで、久しぶりの『歌枠』をやっていきたいと思っているからよろしくー!】


 ――でた、重大発表までじらされるパターン

 ――承知!

 ――ワーイ、久しぶりの歌枠だ!


 やはり、重大発表というのはじらした方がファンの期待値も高まるというもの。

 俺の内心バクバクしながら、モモちゃんの歌枠を聞いていた。

 モモちゃんは最近SNSで流行っている最新曲を、カラオケ音源をベースにして軽快に歌っていく。

 久しぶりに聞くモモちゃんの歌声は、元々明るい性格もあって声量があり、聞いてるこっちまで元気になってくるような歌い方をしてくれる。


【みんなー! ありがとー!】


 元気よくモモちゃんが五曲ほど歌い終えたところで、配信の最初に言っていた『重大発表』の時間である三十分を迎えようとしていた。

 配信越しからは、ぶっ続けで歌ったからか、モモちゃんの絶え絶えの息遣いが聞こえてくる。


【ごめんちょっとお水のませてね……。んっ……んっ……ぷはぁっ。それでは、お待たせしました! 皆さんお待ちかね『重大発表』のお時間とさせていただきます】


 ――うぉぉぉぉー!!!

 ――待ってましたー!

 ――なんだろう?


【まずは、こちらの映像をご覧下さい】


 そう言って、画面が歌枠の画面から切り替わって暗転する。

 映像が流れ始めると――


【人間様初めましてー! 私の名前は桜木モモ! 桜の木に実ったモモから生まれた妖精だぞー!】


 モモちゃんの初配信時の映像が流れ始めた。

 当時のモモちゃんは、まだ初々しくて、どこか洗礼されていない感じがする。

 その姿はどこか、俺の前で話している寺花さんに近いような気がした。

 画面はすぐさま切り替わり、モモちゃんが今まで配信で成し遂げてきた多くの配信のハイライト映像が次々と流れて行ってはスクロールされていく。

 なんだなんだと期待感が膨らんでいく中、画面が再び暗転する。

 数秒の沈黙の後、壮大なBGMと共に画面に光が差し込み、文字が映し出される。


【桜木モモ、活動一周年】

【これまで、多くのモモナーへ届ける、最高の舞台をお届けする】


 ――なんだなんだ?

 ――もしかして……

 ―――そんな、まさか……


 そして、数秒の沈黙があった後、光が差し込んで来て、シャラランとしたBGMと共に金色の文字が白背景に浮かび上がった。


【桜木モモ、活動1周年記念3Dライブ開催決定!】


 ――きたぁぁぁぁぁぁ!!!!

 ――うぉぉぉぉぉーー!!!!

 ――3Dライブは胸熱!

 ――よっしゃぁぁぁぁーー!!


 モモナーのみんながコメント欄で歓喜の声を上げている。


「おぉー!!」


 かくなる俺も、驚きの声を一人部屋で上げていた。

 映像が終わり、先ほどの歌枠の画面へと切り替わると、モモちゃんがニコニコな笑みを浮かべている。


【はいっ! というわけで見てもらった通り、桜木モモ活動一周年を記念して3Dライブが開催されることが決定いたしましたー! いぇーい!!】


 ――👏👏👏👏

 ――やったぁー!!

 ――おめでとー!!


 モモナーのコメント欄は、歓喜の声と祝福メッセージの嵐。


【というわけで、来週の夜二十時から、桜木モモ一周年記念3Dライブが開催されます! みんな、楽しみにしててねー!】


 ――当たり前だー!!!

 ――この日は死んでも仕事終わらせてみせるぜ!

 ――有給取得してきましたわ!


 モモちゃんから発表された3Dライブの日程を俺も自身のスマホで予定を確認する。


「うわっ、バイト入ってるよ……」


 サプライズで発表されたので、俺はバイトのシフトを入れてしまっていた。

 急いで店長へ連絡を入れて、バイトのシフトを調整してもらえないかとお願いする。

 モモちゃんの3Dライブは、アーティストのライブをアリーナに観に行くようなもの。

 別の何かで例えるなら、年一毎年楽しみにしている夢の国へ行くことと同等の価値があるのである。


「よっしゃぁー! 店長ナイス!」


 すると、すぐさま店長からメッセージが返って来て、シフトを調整してくれるとのことだった。

 本当にありがたすぎる。


「にしても3Dライブか……すげー楽しみすぎる」


 モモちゃんの3D実装が半年ほど前。

 他のVtuberさんのライブにゲスト出演したり、公式番組で3D出演している姿を見たことはあるけれど、モモちゃん主催の3Dライブは初めてのこと。

 ファンとして、そして何より、モモちゃんの努力の結果がライブという形で叶うのだから、これ以上嬉しいことはない。


【それじゃあ今日の配信はここまでー! これからライブの準備で忙しくなるから、配信頻度が落ちちゃうかもしれないけど、みんな楽しみに待っててねー! それじゃあみんな、おつモモー!】


 ――ライブに向けて準備頑張ってね!

 ――おつモモー! 

 ――配信減っちゃうのは残念だけど、モモちゃんのライブ楽しみにしてます!


 エンディング画面に切り替わっても、モモナーの熱は冷めることなく、コメント欄は期待に満ち溢れていた。

 配信が終了して、俺はテレビの画面を切る。


「よしっ。俺もモモちゃんのライブに向けて、全力で応援するぞー!」


 ピンポーン。


 俺が気合を入れたとほぼ同時に、家のインターフォンが鳴り響く。

 画面を見れば、そこには配信を終えたばかりの寺花さんが立っていた。


「安野くーん。あーけーて!」


 寺花さんに遊ぼう感覚で言われて、俺はすぐさま玄関へと向かい、扉の施錠を解除する。

 扉を開けるなり、寺花さんがピョコピョコ飛び跳ねながら玄関に上がり込んてきた。


「ねぇねぇ! 私の重大発表見ててくれた?」

「もちろん見たよ。3Dライブなんてすごいじゃん! おめでとう」

「ありがとー! えへへっ……密かに計画してて良かったよ。サプライズ大成功だね!」


 どこか照れくさそうに後ろ手で頭を掻く寺花さん。


「本当に凄いよ。ライブ、楽しみにしてるね!」

「うん、期待してて! 最高のライブにしてみせるから!」


 そう言って、寺花さんは自信満々といった様子で胸を張ったものの、すぐさま姿勢を正して喉を鳴らした。


「それでね、今後のことなんだけど、これからライブに向けてダンスレッスンだったり色々と準備が入っちゃって、毎日忙しくなっちゃうと思うんだ。だから、安野君の看病が出来なくなっちゃうんだけど……」


 寺花さんが申し訳なさそうにいいながら、包帯の巻かれた俺の左手首を見つめてくる。


「そんなの気にしないで。俺のことは自分で何とかするからさ。寺花さんは安心して自分のライブが成功することだけを考えてくれていいから」

「ありがとう。私、頑張るね」


 そう言って微笑む寺花さんの姿は、ライブに向けてやる気に満ち溢れていた。

 3Dライブまであと10日。

 モモちゃんの活動の中で最も大きな舞台と言える計画が、ついに始動したのであった。

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