第36話 金に目が眩んだ者には罠が有効だ
村の西側の入口が見えてきた。
周囲に誰かがいる様子はない。目でも気配でも感じられないので、エルウィンの言う裏社会の奴らはどこかに隠れているのだろうか。
「とりあえずこっちは俺がやるから村の東側を頼む」
「いや、こっちは俺に任せてくれ。ユートは東側を」
「わかった」
エルウィンも腹を決めたのか、西側を担当すると言ったので了承する。
俺は止まらず、そのまま馬を村の東へと走らせた。
「ユート様⋯⋯エルウィンさんは大丈夫でしょうか」
リリアは心配そうな声で問いかけてくる。
気持ちはわからなくもない。半数とはいえ、一人で裏社会の奴らの元へ向かったんだ。
けれど⋯⋯
「大丈夫じゃないか。エルウィンは三十人の相手が二手に分かれていることを知っていたし、馬も自分の分ともう一頭しかなかった。それでもここに来たってことは、初めから半分請け負う気だったんじゃないかな」
もし腕に自信がなければ、衛兵達を待ってから村に行くだろう。まあただ何も考えていないってこともありえるけど。
「そう⋯⋯ですよね! わかりました。私も自分のお役目を果たします」
だけど万が一エルウィンがやられてしまったら、西側にいる奴らがリリアの元へ押し寄せて来るかもしれない。
それだけは阻止したいので、東側の奴らは最速で片付ける。
「それではユート様、村の方達もいらっしゃるので私はここで降ります」
「リリア、気をつけて。もしもの時は東側に逃げてくれ。すぐに駆けつける」
「わかりました」
リリアは軽快に馬を飛び降りると、村人の元へと向かっていく。
本当はもしもの時は自分の命を優先してくれと言いたかった。けれど優しいリリアは、村の人を見捨てることなど出来ないと思ったから言わなかった。
リリアと離れるのは不安ではあるが、今は俺も自分の役目を果たすだけだ。
俺は急ぎ馬を走らせて目的地へと向かう。
見かけた村人達に対して、村長さんの家に避難するよう伝えながら進んで行くと、東側の入口に到着した。
周囲にはまだ人の気配はない。
こちらとしてはバーカルが雇った奴らを逃がさず、最短で処理して行きたい所だが。
「どうする⋯⋯ここは囮を仕掛けるか」
村の中央には絶対に行かせたくないので、俺はある作戦を思いついたので準備し、息を潜めるのであった。
そして村の東側の入口に到着して十分程経った頃。
この場には似つかわしくない集団が現れた。
人相は悪く、皆腰や背中に武器を持ち、明らかに一般の人間ではないことがわかる。
「それにしても今回は楽な仕事だな」
「村人五十人を始末するだけで金貨十枚だ」
「何かあったらあの代表さんが責任取ってくれるしな」
数は十五人、ただ一人だけ集団から少し離れ距離を取っていた。
「それに現地調達してもいいんだろ?」
「お前何言ってんだ? こんな
「どうせ金も持ってねえ。楽しみといったら新しい武器の切れ味を試すことくらいしかねえよ」
「「「ガッハッハ!」」」
バーカルから請けた、ノアの村人達を襲撃する仕事は楽勝だと舐めているのか、集団は姿を隠すことなく堂々と村へと侵入する。
「どうせなら誰が一番殺せるか賭けでもしねえか?」
「おっ! いいねえ! 優勝者には全員から金貨一枚づつでどうだ?」
「その話乗った!」
集団は、これから動物の狩りに行くかのような様子で、誰が見ても油断しているのは明らかだった。
「おい! あんな所に馬がいるぞ!」
集団の一人が、大きな木に繋がれた馬を発見する。
「何もねえと思ったら、良い戦利品があるじゃねえか!」
「早い者勝ちだあ!」
「待ちやがれ! あれは俺のもんだ!」
集団は蜜に群がる蜂のように、我先にと馬へ駆け寄っていく。
「よっしゃあ! 馬は俺のもんだ!」
「ふざけんじゃねえ! 俺が先に馬に触ったんだ! 俺のだ!」
「ロープを掴んだのは俺だ! この馬は誰にも渡さねえ!」
モラルというものが最初から欠如しているのか、誰もが馬は自分のものだ主張し、収拾がつかない状態となっている。
「ヒーンッ!」
馬も突然人に囲まれ、驚き
しかしこの緩い空気は突如一変する。
何故なら欲に目が眩んだ男達の首が、突如地面に落ちたからだ。
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