第35話 ノアの村を守れ

「村が壊滅とはどういうことじゃ!」


 エルウィンの言葉に逸早く反応したのは村長さんだった。


「このバーカルが裏社会の奴らを雇ったのさ」

「裏社会の奴らじゃと!」

「ああ⋯⋯今頃ノアの村の住民を抹殺するために、三十人程で向かっているはずだ」

「さ、三十人!」


 村長が驚くのも無理はない。命を奪うことに特化した奴らが三十人もいれば、村の人達を皆殺しにするのは容易いことだろう。

 そういえば最初にバーカルが村長を見た時、命拾いをしたと言っていたがそういうことだったのか。エルウィンの言うことは信憑性が高そうだ。


「ここに脚の速い馬が二頭いる。一頭はユートに貸してやるからさっさと村に急ぐぞ」

「もしかしてエルウィンも一緒に行ってくれるのか?」

「当たり前だ。そうじゃなきゃこんな話はしない」

「助かる」


 このエルウィンという男はBランクの冒険者なら、戦うことに関して期待してもいいはずだ。

 さすがに三十人を相手に村人達を守りながら戦うのは厳しいから、少しでも戦力が増えるのは助かる。


「衛兵達も急ぎノアの村へと向かってくれ」

「わかりました!」


 公都から来た衛兵達がエルウィンの言葉に返事をする。

 そういえば、何でわざわざ公都の衛兵がロマリオまで来てくれたんだ?

 俺は疑問に思ったが、今はそのことを考えるよりノアの村に急がなくては。


「もちろん私も行きます。傷ついたユート様を癒すのは私の役目ですから」

「わかった」


 正直リリアを危険なことに巻き込みたくはないが、村の人達が怪我を負った時、リリアの回復魔法があると助かる。


「それじゃあリリアちゃんは俺の後ろに乗ってくれ」


 馬に跨がったエルウィンが、さりげなく自分の後ろに乗るようリリアを誘う。


「う~ん⋯⋯私はユート様の馬に乗るので大丈夫です」

「そんなあ」


 エルウィンは懲りていないのだろうか。

 この緊迫した状況でそんな冗談を言う余裕があるなんて。大物か単なるバカだな。

 そして俺はエルウィンが用意した馬に跨がり、リリアを乗せるため引っ張り上げる。

 すると村長さんがこちらに駆け寄ってきた。


「ユートくんリリアさんすまない。わしも行きたい所じゃが足手まといになるのは明白じゃ」

「大丈夫です。俺達に任せて下さい」

「わしは無力な村長じゃ。また君達に頼ることになってしまった」

「村長さんは無力じゃありませんよ。村長さんのお陰で、私達はノアの村で暮らしていくことが出来ました。感謝しています」

「ユートくん⋯⋯リリアさん⋯⋯すまないが村を頼む」

「「はい」」


 そして俺達はロマリオの街を出て、ノアの村へと向かう。

 急がないと村の人達が殺されてしまう。逸る気持ちを抑えながら馬を走らせていると、エルウィンが話しかけてきた。


「ユート! 俺が掴んだ情報だと、十五時に村の西側の入口と東側の入口から挟み撃ちで襲撃するようだ」


 十五時か。それなら間に合いそうだ。


「一人残らず殺すということか」

「ノアの村は辺境にあるから訪れる人も少ない。全員殺してしまえば、犯人は誰かわからないってことだ」


 その中にリリアが入っていたと考えると怒りが込み上げてくる。バーカルをもう一、二発くらい殴っておけば良かったと後悔してきた。


「それで俺が村の西側、エルウィンが東側の奴を倒すってことでいいんだな?」

「いや、無理だ。普通に考えると十五人はいる中に俺一人で行けと?」

「そこはイケメンらしく任せろじゃないのか?」

「いくらイケメンでも無理なものは無理だ」


 こいつ。自分のことをイケメンだと自画自賛しているのか。だが実際にその通りだから否定できない。


「せめてリリアちゃんをこっちにくれ。そうすれば俺のやる気が出る」

「そんな危険な場所にリリアを行かせる訳にはいかない。リリアには村の人達を集めて結界で守ってもらう」

「わかりました」

「俺が危険な所に行くのはいいのか?」

「Bランク冒険者なら何とかしてくれ」


 今ここには三人しかいない。俺一人で両方の敵を倒すのは厳しい。


「エルウィンさん。頑張って下さい」

「くっ! リリアちゃんにそこまで言われたらやるしかないか」


 どうやらエルウィンは可愛らしい女性に弱いようだ。男として理解は出来るけど、ここまで公言する奴は今まで見たことがない。

 だけど何となくこのエルウィンという男の言動は違和感を感じる。目に見えることだけを信じていたら痛い目をみる気がするから、油断はしないほうが良さそうだ。


「そろそろ村に到着する。ユート、しくじるなよ」

「エルウィンも頼んだぞ」

「俺の方は⋯⋯期待しないでくれ」


 俺は発破をかける意味で声をかけたが、エルウィンからは何とも頼りない言葉が返ってくるのであった。

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