第8話 試練
「ユート様?」
可愛らしく首を傾げられても困る。
先程寝室を見た時に、ベッドは一つしかなかった?
まさかリリアは俺と一緒に寝るつもりなのだろうか? そんな恐れ多いことを出来る訳がない。
「俺は別の部屋の床で寝るから、ベッドはリリアが使ってくれ」
「大丈夫です。先程確認しましたら、このベッドの大きさはダブルだったので二人で寝ることが出来ますよ」
何が大丈夫なのか俺には理解出来ない。リリアの考えと俺の考えはずれているようだ。
少なくとも恋人でもない若い男女が同じベッドで寝ることは、大丈夫じゃないだろう。
「そういう問題じゃないけど⋯⋯」
「ではユート様がベッドを使って下さい。私が床で寝ます」
「いや、女の子を床で寝かせるなんて出来ない」
「でしたら一緒にベッドで寝ましょう」
これは折れてくれなそうだな。
だけどリリアは男と一緒に寝ることに抵抗はないのか?
「異論もないようなので、ベッドに行きましょう」
「えっ⋯⋯あっ⋯⋯ちょっと」
俺はリリアに手を引かれて、ベッドへと連れていかれる。
そして俺達は共にベッドで横になるのであった。
「それではユート様、おやすみなさい」
「ああ⋯⋯おやすみ」
と、とりあえずリリアの方は見ないようにしよう。
俺は体勢を変えて、リリアに背を向ける。
そして数分の時が過ぎた。
もうリリアは寝たかな?
背後の気配を探ってみるがよくわからない。
とにかくリリアは、俺を信頼して同じベッドで寝ることを許してくれたんだ。その期待を絶対に裏切ってはいけない。
俺はリリアに指一本触れないことを誓い、夢の中へと向かう。
しかしその誓いは一瞬にして破られた。
何故なら突然俺の背中に温もりを感じたからだ。
「ユート様⋯⋯」
リリアが問いかけてくる。
だが俺は予想外の出来事に驚き、すぐに声を出せないでいた。
今まで女性と触れあう機会などなかったから、俺にとっては刺激が強すぎる。
「な、何?」
だけど寝ている振りをする訳にはいかないので、何とか声を絞り出す。
「この度は、私のために王国を捨てることになってしまい、申し訳ありませんでした」
どうやら真面目な話のようだ。俺は雑念を消してリリアの問いに答える。
「気にしないでいい。俺にはもう両親はいないし、大した問題じゃない」
命を救ってもらった時から、俺はリリアのために生きると決めたのだから。
「俺のことより⋯⋯その⋯⋯リリアの方が大変だったろ」
ただ国を出た俺とは違い、無実の罪を着せられ、婚約を破棄されたリリアの方が大事だ。
「横領の件は確かに思うところがありますけど、婚約破棄については気にしていません」
「ん? どういうこと?」
婚約破棄をされたら、普通なら精神的に追い込まれてもおかしくない。
しかも公の場所で、婚約者自ら突きつけられたのだ。
「元々ライエル王子とは、一度しかお会いしたことがありません。ですからそれほど大きなショックはないと言いますか⋯⋯」
「そうなんだ」
一度しか会っていないって。王子もリリアもこの婚約を望んでいなかったということなのか? これ以上そのことについて聞いてもいいのかわからなかったので、俺は他に気になったことを質問をしてみる。
「それで⋯⋯リリアはこれからどうしたいのかな?」
「私はこれまで限られた所で生きてきました。出来れば普通の暮らしがしてみたいです」
やりたいことも出来ず、ずっと監視がついている生活だったんだ。それなら俺はリリアがやりたいようにフォローするだけだな。
「それじゃあ村長さんに、しばらくこの家を使ってもいいか聞いてみようか」
「はい」
それと多少のお金は持っているけど、いつ底をつくかわからない。何か仕事も探さないとな。
「明日から忙しくなりそうだ」
「ふふ⋯⋯そうですね。でもそれがいいです」
俺に取っては当たり前でも、決められた日常を過ごしていたリリアに取ってはとても楽しみなことのようだ。
そしてこの後、俺達は雑談をしているといつの間にか夢の中へと旅立つのであった。
翌日の早朝
俺とリリアは旅の疲れがあったのか、すやすやとベッドで寝ていた。しかし突然どこからか叫び声が聞こえてきて、目が覚めるのであった。
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