悪役令嬢に嵌められて婚約を破棄され、国を追放された聖女を救うため、王国一の剣士は旅に出る~もちろんこの後の展開は想像どおりです~

マーラッシュ【書籍化作品あり】

第1話 プロローグ

 レガーリア王国王城のパーティー会場にて


 この場にはきらびやかドレスや、宝石を身につけた貴族が大勢いる。

 何故ならレガーリア王国は、聖女の力で強力な魔物に襲われることがないため、順調に国力を高めることができ、他国より裕福なのだ。

 だが平和な時が長く流れていたため、皆この現状が当たり前のこととなり、聖女に対する感謝の気持ちが薄れていた。


 その証拠に聖女であるリリアがパーティー会場に現れても、誰も声をかける者はおらず、皆遠巻きに眺めているだけだった。

 そのような中パーティーが始まり、中盤に差し掛かった頃。突如第二王子であるライエルが壇上へと上がる。


「本日は私が主催するパーティーによくぞ来てくれた」


 ここにいる者達の目は一斉にライエルへと注がれ、誰もがざわつき始めたのだ。

 何故ならライエルが肩に手を置き、親しげにしている相手は婚約者であるリリアではなく、侯爵家の令嬢であるイザベラだったからだ。


「今日は皆に伝えたいことがある。私の婚約者は聖女のリリアと決められていたが、この場を持ってその婚約は破棄させてもらう!」


 突然の言葉に会場はざわつき始める。

 無理もない。王族の一人が、公の場で婚約破棄を申し出るなど前代未聞の出来事だからだ。

 普通ならいくら王族だろうと許される行為ではない。

 そう考えた貴族の一人が王子に進言する。


「聖女であるリリア様との婚約を解消しても大丈夫でしょうか? 聖女様は王国を守護する存在です⋯⋯このことは陛下の許可を得ているのですか?」

「父上⋯⋯国王陛下にはこれから話すつもりだ。それと聖女の守護などまやかしだ。問題あるまい」


 ライエルの無計画な発言を聞き、貴族は顔を真っ青にする。


「案ずるな! 私はリリア⋯⋯この女の悪事を知っている!」

「ライエル王子⋯⋯私はそのようなことはしておりません」


 リリアは事態が飲み込めておらず、戸惑いながらライエルに問いかける。


「私は最初からこの婚約には納得いかなかったんだ。下賤な者達の世話をして薄汚れたお前とのな」


 聖女であるリリアには基本自由な時間はない。

 だが本人の願いもあって唯一認められたのが、教会での炊き出しや孤児の世話だった。


「だがまさか心まで薄汚れていたとはな」

「どういうことでしょうか」


 リリアは弁明しようと壇上にいるライエルの元へと向かう。


「とぼける気か? イザベラ、この女の罪を教えてやれ」


 イザベラがリリアを見下ろし、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言葉を発する。


「リリアさん、昨日あなたのお家にお邪魔したことを覚えていらっしゃいますか?」

「はい⋯⋯」


 イザベラの言うとおり、突然聖女のことを知りたいとリリアの家に訪ねてきたのだ。


「その際に私は見てしまいました!」


 会場にいる者達は、イザベラの演出がかった言葉を聞き息を飲む。


「数えきれないほどの金貨を! 聖女様は国が管理しているため、あのような大金を持つことはないはず」

「あれは前日に傷を治療したお礼にと、伯爵家の方が置いていかれたものです。もちろん頂く訳にはいかないのでお返しするつもりです」

「そのことにつきましては、私が直接伯爵家の方にお聞きしました。大金を払わないと治療は拒否することと、私の後ろには第二王子であるライエル様がついていることを忘れるなと脅されたと申しています。このような方がライエル様の婚約者に相応しくないことは明白です!」

「女神様に誓ってそのようなことは言ってません。ライエル様、信じて下さい」


 皆の目がライエルに注がれる。そしてライエルが口にした言葉は⋯⋯


「改めて宣言する⋯⋯」


 ライエルは殺気を込めてリリアを睨み付ける。

 それは婚約者に向ける視線ではなかった。


「リリア、お前は高貴な私には相応しくない! この時を持って婚約は破棄させてもらう! そして新たな婚約者はこのイザベラとする!」

「そんな⋯⋯」


 ライエルの言葉に会場は騒然となり、リリアはショックを受けその場に膝をつく。


「元婚約者だった情けだ。命までは取らん。レガーリアからの追放で許してやろう。もう二度と私の前に現れるな!」

「ライエル様。私は⋯⋯」

「兵士達よ! 早くリリアをこの会場から連れ出せ!」


 リリアの言葉は誰にも届かず、兵士達の手によってこの場から退場させられてしまう。


 リリアは何が起きたかわからないままライエルとの婚約を破棄され、レガーリア王国を追放されるのであった。

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