第4話
気が付けば。ここで働き始めてから半年が経過し、私は『ローズ』から『モッカ』へ移動となり、『モッカ』を任されている
「聞いて!武田さんが退社しちゃうって。なにがあったんだろう!」
「え、聞いてないけれど本当?」
「さっき、社長に話してるの聞いちゃった!もう次の職場も決まってるみたい。」
私は久保田みのりと顔を見合わせた。
お昼の休憩でいつものクレープ屋に行く。
「おばちゃん、いつものセットお願い。」
そこのクレープ屋のおばちゃんはとても気さくで、通っているうちに仲良くなった。
「いつもありがとね。ちょっとだけオマケしとくから、内緒だよ。」
クレープとは別に小さなアイスが添えられていた。
「嬉しい!ありがとうございます。」
こんなやり取りしてると、私もかなり馴染んできたんだなと思う。半年ほど前なんて引きこもり生活だったのに。
そこへ偶然、武田織江がやってきた。
「あ、休憩ですか?お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
武田織江の横顔は少しやつれていたように見えた。店長も大変だったのかもしれない、そう思っていると
「宮本さん、ごめんなさいね。私、退職することにしたんです。」
と、武田織江のほうから切り出してきた。
「え、そうなんですか?ほかにやりたいことが見つかりましたか?」
「ええ、県庁の市役所に決まって。アパレルから離れて落ち着きたくて。」
「決まってよかったです。こちらにはいつまで?」
「今月いっぱいです。それまでよろしくお願いしますね。」
「こちらこそです。」
話しているうちに武田織江のクレープも焼き終わった。
「じゃ、また。」
私は武田織江の後姿を見送った。
武田織江が退職し、次の店長は小泉由香里に決まった。
「私なんか~。」と、最初は言っていた小泉由香里もまんざらではなさそうだった。
住吉奈々は、武田織江が県庁に就職したのを根に持ったのか悪く言いふらしていたけれど、それも長くは続かなかった。一人減ったにも関わらず、社長は新しい人員を雇うことはしなかったため忙しくなったからだ。私も吉住奈々と同じように、店舗のヘルプに回るようになった。おかげで今まで接点がなかった『メヌエ』の飯島久美や、佐々木唯と話すことも増えた。
そのあたりから、それは始まっていたのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます