第1話

 だるい。

 なぜ昨日まで引きこもりだったのに、突然仕事が決まったのだろう?

 そりゃあ仕事はしなくちゃ生活はできないけれど、さ?

 少しず~つ、少しず~つ、社会復帰しようと思ってたのに。

 そう、事の始まりは2日前。変な夢をみた、次の日。


『こちら職業相談所ですけれども、宮本理子みやもとりこさんの携帯でお間違いないでしょうか?』

「は、はい。私ですけれど。」

『お申込みなられていたお店からご連絡がございまして、面接の日程のご相談をさせていただきます。』

「え?ええと、あのう…。私、なにも申し込んだ覚えがないのですが?」

『覚えがあってもなくても構いません。明日、面接していただなくてはなりません。』

 拒否権なし?職業安定所ってこういうもん?

 というか、職業安定所さえ行った覚えが…いや、覚えはあったかもしれない。

 けれど、いつだったろうか…?記憶にございません、じゃダメ?

 という成り行きで。

 話は強引に進み翌日に面接へ行き、その場で決定。マジか…。

「では、早速ですが明日からお願いしますね。」

 面接してくれたのはショップの店長、武田織江たけだおりえで、大型ショッピングモールの中にある3店舗をまとめているらしく、行動も話し方もテキパキだ。

「え、明日…ですか?」

「はい、すぐに働けると伺ってますが、ご都合悪いでしょうか?」

 いきなり明日とは。都合が悪いのは心の準備と、あと仕事に必要なものくらいか。そんなことを考えてる私の気持ちを読み取ったのか、

「ここで働いている子たちは皆、同じくらいの年齢ですぐに馴染むと思いますよ。それと、制服はありませんのでお持ちの服でも構いませんし、お店で買っていただいでも構いませんので。」

 もしやエスパーか⁉と思う言葉にドキリとしつつ、ここはアパレルショップだ。適当な服がなければ買えってことか。

「はぁ。」

 私は気のない返事をする。が、しかし。

 成り行きとはいえ、決まってしまったのならしょうがない。

 ふと、一昨日見た夢を思い出す。

 これは、…こういうことか。

 

 その夜の夕食時、話を切り出した。

「おとうさん、おかあさん。突然なんだけど、私、明日から働くことになったからよろしく。」

 この言葉で両親ともに驚いていた。そりゃそうだ。この3年間、私は。大学を卒業してすぐに働き始めた会社のによって、精神を病んでしまったのだ。以降、ほぼ自室から出ないひきこもり生活。なのに明日から突然、働くなどと言えば驚くのも無理はない。

 よわい26、社会復帰。本当に働けるのだろうか?いや、いつまでもこうしているわけにはいかないし、ダメだったらやめればいいさ。


 そんなわけで。

 朝、起きるのに慣れていない、鉛のように重い自分の体を気合で起こす…。

「はあ…。」

 窓の外をみると、嫌味なくらい良い天気で。

「はあ…。」

 二度目のため息とともにベッドから出る。どれだけやる気が出ないんだろう。やっぱり無理なんじゃないかな?そんなことを思いながらリビングに向かうと、

「理子、おはよう。朝食ができてるわよ!」

 気合のこもった瞳の母がいた。いつもよりパワーアップされた朝食からも、ずんずん伝わってくる。これは「やっぱりやめる。」だなんて、とても言えない。

「ありがとう。先に顔を洗ってくる。」

 急いで顔を洗い、ダイニングの椅子に腰を掛け朝食を食べる。

「おいしい。ありがとう、おかあさん。」

 この時間に朝食を食べたのはいつ以来だろう?規則正しい生活というのは、やはり大事なものかもしれない。

 朝食を済ませ、後片付けをしようとすると母がそれをさえぎる。

「あなたは仕事へ行く支度をしなさい。」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えるね。」

 それから私は簡単なメイクして、着替えをする。初日はあまり気合を入れすぎない方がいいかな?と思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る