第4話 

キィーー、、、


ドアが開く音がする、おそらくこの部屋の主人であろうモノから声がかかる

「目が覚めましたか?」


その声を聴いて思わず上げようとした顔を止める。


(ありえない、ありえない、ありえない…)


「まひるさん??…」

この場にいるはずのない人の名前が口から漏れる

そんなわけない。彼女がここにいるわけない..................


____

「さすがに付き合いきれないよ」

結果的にそれが彼女と交わした最後の会話だった。もう二度と話せないことをさと過呼吸かこきゅうになりその場に倒れこんだ。


彼女の声が好きだった

彼女の顔が好きだった

彼女の話し方が好きだった

彼女の笑い方が好きだった

彼女の考え方を尊敬していた」

彼女の卑屈なところが愛しくて


どれもこの世で一番綺麗に輝いていた


まひるさんはよく「自分の顔が嫌い」と言って泣いていた


______


そんな彼女が目の前にいる


(いやそんなわけない、そんなわけない。落ち着け)


「目が覚めました??」


心臓の音が馬鹿みたいに部屋に響く、顔を上げるのが怖い。頭ではあり得ないと考えつつも期待してしまってる自分がいる。


ギシ、、ギシ、、ペキ、、、、、、


床の鳴き声がやけに静かな部屋に響く。顔をせた視界の中に声の持ち主の足が映る。

少し心配してそうな声色で

「大丈夫ですか??目が覚めたようでよかったです」


(ダメだ、顔があげられない)

顔を上げるタイミングを失いもじもじしていると


しゃがんでのぞき込んできた顔と目が合う


(え、、、、、、、、、、、)


白い仮面を被った女性。それが目の前の彼女に抱いた印象だった


「どうかしましたか?」

小首を傾げ俺の顔を覗き込んでくる動作に心を奪われる


(彼女はまひるさんじゃないだろ、何ドキドキしてんだよ)


「あ、う、、ええっっと」

舌がうまく回らずどもってしまう


(よくよく考えたら、俺四年引きこもってたんだ。さっきはなんとなく勢いでいけてたけど..................)

なんてことを考えながら黙っていると彼女の手が俺のおでこに触れる

懐かしい声と雰囲気に思わず涙があふれる


「え、、え、ごめんなさい。私なんかに触られたら嫌ですよね..................」

彼女が申し訳なさそうに言う。


(違うんだ。違うんだよ。)

そう言おうとしたが実際に出た言葉は


「まひるさん、、、」


「なんで私の名前を知っているんですか???!!!」

彼女の驚いた声が部屋に響く


(ああ、なんて世界は残酷なんだ)


頬を伝って落ちた雫が床を濡らす。一度零れた涙はせきを切ったかのように無限にあふれ出る。それを見て一層困ってる彼女の懐かしい雰囲気に更に涙が零れる。


五分ぐらい経っただろうか彼女は何も言わず側にいてくれた。


「落ち着きましたか?」

とても……とてもとても優しい声で俺に問いかけてくる


「ああ、すまない」

少しかっこつけて答える。あんなにぎゃんぎゃん泣いた後に阿保らしいが少し冷静になれた自分がいる。続けざまに口を開く。

「ここは??一体。君は誰だ?俺はどうなっていたんだ?」


彼女はとても綺麗な声で答える

「ここはシオン街の私のお家です。さっき言った通り私はまひるって言います。貴方は街の外れの森の入り口に倒れてましたよ」


そうかここはイノの国なのか。


この世界には主に二つの人種が存在する。


一つ目が俺や姫や悟浄などのドグ

次がイノだ。実は俺もイノについてはあまり知らない。ドグの國の周りは壁で囲われていたし國の外には出たこともなかった。おそらく彼女はイノなのだろう。


「紫街??」

聞いたことのない単語に思わず反応する


「ご存じないですか??八つの街の一つの紫街です、お名前はなんていうんですか?」


(だめだ、何言ってるか全然わかんねえ)

「俺はシュテンだ。八つの街?すまないが詳しく説明してほしい」

言ってすぐ後悔した。

(なんもしらねー奴だなって思われるのやだな)

どうやら俺はこの人の前ではよく思われたいらしい。俺のキモイ考えをよそにまひるさんは優しく答えてくれた。


「えーと、この国はですね。八人の代表者により統治されており、それぞれ一つずつ街を持ってます」


「なるほど、そのうちの一つがこの街ってわけか」

なんとなくだが理解する。しばらく黙って考え込んでいるとまひるさんから声をかけてもらう

「シュテンさんはどこからいらしたんですか?」


なんて答えたらいいか悩み、また黙り込んでしまう。


「あ、、言いづらいこともありますよね。ごめんなさい、余計なことを聞いてしまって」

遠慮えんりょがちに申し訳なさそうにする彼女を見て


(あ、好きだ)

やっばいな、死ぬほど可愛い。胸がドキドキするなんてレベルじゃない。恋なんてレベルじゃない。渇愛かつあいだ、執着だ、欲望だ。彼女が望むものなら俺は何でもするだろう。

(好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ)

彼女が俺の前世の想い人なわけないだろう。それはわかってる、だが好きだ。彼女のことはなんも知らないが俺は彼女に対して愛以上のモノをすでに抱いてる。

もっと困らせたい。俺のことで悩んでほしい、病んでほしい。永遠に考えがまとまらない俺を心配そうに見つめる彼女。何て綺麗なんだ。


「あ、、あの、、ごめんなさい。余計な事聞いたしまって」

遂には顔を伏せてしまった彼女をみてふと我に返る

(まずいまずい)

キモイ部分が前面に出てしまったことを少し反省する。


「いや、悪い。気にしないでくれ。俺もよく覚えてないんだ。そうか介抱してくれてありがとう。助かった」

少しの嘘を混ぜ丁寧に感謝を伝える。そしてまるでもう部屋をでてくみたいな態度をとろうとする、

すると彼女が


「そんな、、、まだ寝てたほうがいいですよ。ゆっくり休んでってください」

その言葉を聞き心の中でガッツポーズをする。優しい彼女はそうやって言ってくれるだろうと思っていた。自分を死ぬほど気持ち悪い性格に嫌気がさすと同時に満たされる。


窓の外を除く恐ろしいほどの濃い闇の中に真っ赤な月が綺麗にとても綺麗に佇んでいた。


(今の自分の心をこの世界に見透かされてるみたいだ)










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