第3話
「もう! 帰っていたなら声を掛けてよ!」
「ごめん。寝てたから声を掛けそびれて……昨日は帰れなくてごめんね」
「いつ帰ってきたの?」
「明け方近くかな。片付けと仕込みをしていたら終電に間に合わなくて、店で寝させてもらった」
「タクシーを呼ばなかったの?」
「タクシー? ああ、バスみたいにお金を払うと乗せてくれる車だっけ。歩いて帰ることしか頭に無かったよ」
いつの間にかジェダの足元に擦り寄ってきた小雪の声で我に帰る。
「そうだ。小雪のごはん……」
「俺がやっておいた。もうすぐ俺たちの朝食も完成するから」
「明け方に帰ってきたなら、まだ寝足りないんじゃない? 私が代わるよ」
「あっちの世界では、仕事で寝られない日なんて普通にあったから大丈夫。それより、先に顔を洗っておいで」
ジェダの言葉に甘えて洗面所で洗顔して戻ってくる頃には、リビングのテーブルには朝食が並んで、サラダを狙う小雪をジェダが追い払っているところだった。
「冷めない内に食べて。コーヒーを淹れてくるから」
「それなら私が……」
「いいから、コトは座って」
コーヒーを淹れにジェダがキッチンに向かったのに対して、小雪は日当たりが良い窓際に行くとお腹を見せながら床に寝そべる。
小雪はジェダのことが好きだから、きっとサラダじゃなくてジェダに相手してもらいたかっただけだろうな……。
「そういえば」
小雪を眺めていると、二人分のコーヒーを手に戻ってきたジェダに話しかけられる。
「今年は行かないの? えっと、コミケ? 」
「うん。今年は申し込まなかったの。どうせ売れないし、無駄に在庫を増やすだけだから……」
「コト……」
エプロンを外したジェダが手を止めて見つめてくる。
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