第2話 ロゼリカとハーブティー【一章完結】

「今日の大魔導の研究はここまでにしよう」

 お疲れ様と自分だけに聞こえる声で研究室を出ていく。ふと帰り道に路地裏に用事があるのを思い出した。



闇の市場ブラックマーケットでしか手に入らない「高級ハーブ」、あれだけはどうしても手に入れたい。高級ハーブで作り出したハーブティーを飲む時間は、ロゼリカにとって癒しの時間だ。氷の姫ブリザードプリンセスと呼ばれた魔法使いの冷たい心を溶かしてくれるのは、「高級ハーブ」で作ったハーブティーだけだ。


「高級ハーブ、ひとつ」

「あいよ、いつもありがとね。ひっひっ」

 黒いローブを深くかぶった顔の見えない老婆から「高級ハーブ」を買うことができた。

 さあ、帰ろう。と思ったその時に、「そういえば、常連の魔女さんにとても良い情報があるのさ、路地裏にある店ができたというその店は、食べたり飲んだりしただけで、ステータスがアップしたりとかする店らしいよ。まあ信じるか、信じないかは魔女さんしだいさ、ひっひっひっ」


 不気味な話だと思った。ものを食べたり飲んだりしただけでステータスがアップするなど考えられない。そんなことを考えながら路地裏を歩く。通りすぎる二人の会話が耳に入る。

「おれ、ステータスアップしたみたい」

「まじで、あっ、ほんとうだ」

 二人の会話を遮るようにして「その話、詳しく教えて」と言いチップを渡して話を聞くことにした。

 話によると、この店のようだ。中が全く見えない。どうにかして中を見たい。と思っていたら「カラン」という音とともに、誰かが声をかけてくる。

「お客様、ただいま、閉店中で……」

「あっ……。すいません。ステータスがアップする店はこちらでいいのでしょうか?」

「ステータスとはなんでしょうか?よくわかりませんが、せっかく来てくれたので飲み物くらいはサービスしますよ。なにか希望はありますか?」


 どうやら、ステータスアップの店ではないようだ。注文する飲み物をメニュー表と呼ばれるもので見ているが、さっぱりわからない。ふと今日買った。「高級ハーブ」を思い出す。


「あの、ハーブティーはあるかしら?」


「ええ、ありますよ。少しばかり時間がかかりますがよろしいですか?」


「いいわよ。待つわ」


 カウンターで頬杖をつきながら見物することにする。店主の背後にある店主よりもちょっとだけ高い扉を開いたあと銀色の袋を取り出す。小さなザルのようなものを出したあと、銀色の袋から乾燥されたハーブをザルに入れる。頬杖をついていた魔女は、「これは何?」と質問をする。

「これはハーブを乾燥させたものです。わたしの、いや、この辺では手に入らないかもしれない。幻のハーブです!」


「幻のハーブ⁉」


 幻のハーブなど聞いたことがない。この店は一体?どこからこれを仕入れているの?

 陶器にハーブを入れると次にお湯をゆっくりと注いでいく。

「熱いので気をつけて」

 形の整えられたカップと小さなカップを置くため専用と思われる皿。保温性の高そうな陶器に入ったハーブティー、どうやら高級な店に来てしまったようだとロゼリカは、店を出たい気持ちで、いっぱいなる。

 タダだから、と言葉に甘えて、カップにハーブティーを注ぐ。ハーブの香りがとてもいい。

 いつも買っている「高級ハーブ」よりもこちらのほうが香りを強く感じられる。

 美しい形のカップを持って、より近くで香りを楽しむ。香りだけ満足してしまいそうになる。ゆっくりとカップを傾け一口飲んでみる。ハーブが口の中に溢れる。また一口飲むと更に濃厚さを感じられる。後に甘みがきて、次も飲みたいと脳は指令を出してくる。

 ほっと一息。落ち着いた。この時だけは、誰にも邪魔されたくない。ほんの少しの間だったけれど、「高級ハーブ」より満足感を得ることができた。

「ステータスが上がってる⁉」

 飲み終えたあと、びっくりしたのち席を立ち出口の方に向かう「また、来るわ」と言い、チップとして「高級ハーブ」をプレゼントしてくれた。


「またのお越しをお待ちしております」



 氷の姫の冷たい心は、喫茶、恵によって溶かされる。クールな瞳からのギャップが良い。ふふっと柔らかな笑顔がとても似合う女性に変わる。茶色のローブから微かに見えるしなやかな脚、黒の三角帽子を抑える手は雪のように白い美しい蒼髪の魔女「ロゼリカ」



 ♢ ♢ ♢


【あとがき】

 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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