四天王たちのカス会議 〜四天王やめにしよう〜

はっけよいベレッタ

前編

他の四天王を見た時から、これはこの先やばいかもしれない、とは思っていた。


知能が低そうで最初はゴーレムかと思ったけどご飯モリモリ食べるからそういうデカくてゴツい魔族なんだろう要塞鬼。

大物ぶった態度してるけど喋ると割と早めにボロが出る、ヒゲを変な形に整えた剣騎卿。

すっぽりフード付きローブを被って中からコポコポ音がする、もう何なんだか全部分からない無影妖魔。


まともに会話できない相手が2人もいるのだ。

顔を最初にあわせた時、最後に来た私を見て剣騎卿がほっとした顔になっていたのを覚えている。

要塞鬼はオデ腹減ッタとか言ってて、無影妖魔はなにやら仮面の奥でゴポゴポ音させる以外の音を発しなかった。

このメンバーで、何をどうしようというのだろう。


中位幹部から昇進し、蛇女帝の称号を得て軍の新設大幹部「四天王」に入れたと知った時は、やっと魔王様へ直接進言ができると喜んだものだ。

だから早速、行動を起こした。

魔王様、早速ですが四天王って制度見直しませんか。



「全員、揃ってくれたみたいね。それではこれより、魔王様の名のもとに四天王会議を始めるわ」

「いや…三人しかいないようだが?」


石造りの構造に薄暗い光源のせいか、空気がひどく冷えているように感じる。一応ここが会議室なのだが、ここで会議が行われていたという話には聞き覚えがない。なんのために作られた部屋なのか。

もともと広い部屋ではあったが、装飾の凝らされた椅子もほとんどが空いていたため余計に広々として見えた。

本来いるべきだったはずの巨躯の持ち主、要塞鬼がいればまだマシだったかもしれないが。

「来なかった分は無視するわ。どうせオデに飯よこセとかしか言わないでしょアレ」

「うわ辛辣だな」

「必要だってなら貴方が連れてきてよ、剣騎卿」

「いや、結構だ。始めてくれ」

『ゴポゴポ…』

だるそうに進行を譲る剣騎卿と、やはり何も言わない無影妖魔。既に無駄な時間を過ごしている感覚がしてきてしまったが、気を取り直して本題へと入る。


「魔王様に、四天王の増員を進言してきたわ」


「四天王始まってまだ半月なのにか!?」

さすがに剣騎卿もこれには声音が変わった。

「ねえ剣騎卿。現状わかってる?」

予想できていた反応。予想できてたけど、実際聞くとイラッとする。

「四天王ってね、軍の幹部なの。でも私除いたみんな魔王様からの勅命以外は好き勝手単独行動してるだけで軍の運用とか考えてないでしょ? なんで城内私闘で死人出てばかりなの? なんで昼間の正門は門番20人くらいいて他は大半ガラガラなの? 軍っていうか、一応命令には従うって魔物が沢山住んでるだけの場所じゃない? ここって」

剣騎卿が露骨に目を逸らす。

それにもまたイラッとしたが、貴重な話せる相手に感情全部ぶつけても仕方がない。

「だから組織を再編成して指揮系統をわかりやすくしないといけないの。普通に考えれば私たち四天王が役割分けて下に命令出して動かすんだけど、今のメンバーじゃ絶対無理でしょ?」

「まぁ…なぁ? こっちの仮面の奴は命令どころか声すら出さねえしな」

「で、要塞鬼はオデ腹減っタとかしか言わないでしょ」

アンタも部下の面倒全然見ないし、と言いかけたがギリギリで飲み込む。

「こういう現状を魔王様に進言して四天王増員の許可をもらってきたわけね」

「お前行動力すごいな」

「アンタ達が無さすぎるんでしょ。蹴り入れるわよ、今履いてる先の尖った靴で」

「やめろ、なんでそんなモン履いてんだ」

ついに感情が一瞬溢れて脅しを入れてしまったが、一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

剣騎卿も変なところに言及せずに会議進行を支えたほうがいいと考え直したのか、思い出したように議題に関する疑問を尋ねた。

「増員は賛成するが、5人以上いて四天王は駄目だろ」

「…ええ。そこは魔王様からも指摘があって、増員には条件が与えられたわ」

ガラガラガラ、と部屋の壁側から木製ホワイトプレートを引き寄せる。さすが会議室、変に部屋は広いが会議に必要なものが設置されている。

ペンの蓋を取り、プレートの最上段に「四天王」と書き…上から大きくバツをつけた。

「四天王は七人に増員。名前を七大罪と改め、各自モチーフを持つものとします」



「あー、七人に増員…は分かるんだが。各自モチーフを持つってのは何なんだ?」

「そういうのがあるのよ。7つの大罪っていうのが。その七種類になぞらえた魔王軍幹部になるってことね。私たちも含めて」

「例えばどういうのになるんだ?」

ピンときてない顔で質問ばかり繰り返す剣騎卿。だが話はそれでスムーズに進むからまあ助かる。

「例えば、『暴食』っていうのが7つのうちの1つなのだけれど」

キュッキュッと音を立てて、プレートに書き込む。

「これは要塞鬼の担当にしましょう」

「あー、なるほど。そうだな」

即決。

まるで最初からこの担当のためにいたのではないかというほどの納得感。

「アイツ本当に飯の話しかしないからな」

「そうね。今朝も『オデの箸はドこに行ったンだ?』とか言ってたわ。食べることにしか興味ないのよね」

「え、アイツ箸使って物食べてんの?」

「そうらしいわね。じゃ、話の続きなんだけど…」

だんだん会議がそれらしくなってきた。参加者が二人であることを除けばだが。

と、字を書こうとした手が止まる。

「? どうしたんだ蛇女帝」

「えっと…何だったかしら。他の大罪。ちょっと待ってて、思い出すから」

憤怒と、嫉妬と、あと…憂鬱だったっけ、高慢だったっけ。机に置いてる資料をめくれば書いてあるはずだが、なんだか悔しいので見ずに思い出したい。

あれ? 全部で何個あるんだっけ?

いや何考えてるんだ私。7つって言ってんでしょ。それで憂鬱だっけ高慢だっけ…

『コポッ…嫉妬、怠惰、憤怒、色欲、傲慢、そしテ強欲だヨ。コポコポッ…』

「うおっびっくりした!」

急に聞こえた不気味な声。それに驚いた剣騎卿の大声の方に私は驚いたんだけど、私は仕事のできる女なので今上がった言葉をプレートに書いてから声をかけた。

「憂鬱って入ってなかったかしら? あと無影妖魔…あなた喋れたのね」

『コポッ…喋るヨ。それかラ、憂鬱は七大罪の原典に遡ル概念だが、七大罪の形になル際に怠惰に統合さレたんだ。コポポッ、虚飾や欺瞞といウものも存在シたんだけど、それラも他に統合サれて無くなっていル』

「コイツ急に喋りだしたな。カタコトなのが要塞鬼と被るから喋らなかったのか?」

『違ウ…コポッ、興味ない話は面倒ナんだヨ』

喋りだしたと思ったら、サボリ魔なことを開き直ってきた。

「じゃ、あなたは『怠惰』の担当ね」

『好きにしナよ…コポッ』

「すげぇトントン拍子に決まってくな」

会議はだらだらやっても意味がない。スムーズに進むならそれが一番だ。

「で…私は『強欲』を担当するわ」

「オイちょっと待て」

この流れで一気に決めてしまおうと思ったのだが、ここで剣騎卿からまさかの横槍が入ってしまった。

「何よ?」

「待てって待…強欲って書いた下にもう自分の名前書いてんじゃねえよ!待て!」

「うるさいわね、言いたいことあるなら言ったらいいじゃない?」

「蛇女帝、お前が『色欲』やらないなら誰がやるってんだよ!?」

きた。

できることならこの言い合いは避けて通りたかったけど、こうなってしまっては仕方ない。

「嫌なのよ!そのポジション収まったらあの人エロいんだって思われるじゃない。私を『色欲』枠に押し込もうとするあなたの方がエロいんだからあなたが『色欲』やればいいじゃない」

「俺が『色欲』だったら変すぎるだろ! いいだろお前幹部なりたての頃、半裸みたいな服でイバラみたいな鞭振り回してただろ。それ知ってるやつは皆お前のことエロい奴なんだなって思ってるぞ」

「ぐっ、それはあの時は…幹部としての方向を模索してたりしてた時期だったから…」

消せない過去というものは厄介なものだ。黒歴史を掘り起こされ、形勢が不利に追い込まれる。

不本意ながら会議で一番の白熱となった今、負ける訳にはいかない戦いが始まった。

「お前が『色欲』で俺が『強欲』を担当するぜ。それが自然だろ」

「なら言わせてもらうわ。私は今日の働きで四天王筆頭の位を魔王様に印象付けようとしてるくらいには強欲だけど、あなたはそういうのあるのかしら?剣騎卿?」

「何、お前そんな事を…いや強欲じゃないな。働きに対価を求めるのは当然でそのぐらいむしろ謙虚なくらいだ。お前はぜーんぜん強欲じゃない」

『コポコポッ…ボクも色欲ノ枠は蛇女帝が担当すルべきだと思うヨ』

「うるさいわね…怠惰担当は怠惰らしくサボってなさいよ」

思わず会議机を大きく叩いてしまい、意外と気の小さい剣騎卿と無影妖魔がビクッとしてしまう。

このままキレ散らかすのもアリといえばアリだが、私は仕事のできる女なのでこうなった場合のプランも用意している。さすが四天王筆頭を狙う強欲な女は一味違う。

鞄の中から出した書類の束を投げつけるように二人に渡し、座り心地のイマイチなこの椅子に深く座りなおす。

「つまり、他に色欲の担当者がいればいいわけよね」

そう、会議の本題は四天王からの増員。三人の幹部が増えるのだ。

残っているのは傲慢、強欲、色欲、憤怒、嫉妬。

幹部同士での席の奪い合いは、加熱してゆく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る