実況と解説の二人が気付いたこと
全く動きがない二人を前にして話題も無くなった実況解説コンビは栗宮院うまな中将について取材してきたことを話していた。どんな話かというと、一般的に知られている栗宮院うまな中将と実際に会って話してみた時の印象の違いについて楽しく語っていたのだ。
「意外な一面ですね。私はもっと話しかけにくい方なのかと思っていましたよ」
「割とそういう印象を持たれる方も多いと思うのですが、栗宮院うまな中将は取材陣とも気さくに話をしてくれる方ですね。マーちゃん中尉も質問をすれば答えてくれることもあるんですが、イザー二等兵は取材に行っても姿を見かけること自体がないので話をしたことはないのですよ。こうして戦っている姿を拝見するだけの関係になるんでこれをご覧になっている視聴者の方と同じ程度の情報しかないですね」
「イザー二等兵に関しては謎が多い部分が目立ちますよね。実力や実績を鑑みると、大佐以上になっていてもおかしくないものがあると思うのですが、宇藤さんはそのあたりに関してどうお考えでしょうか?」
「そうですね。今までの入隊試験の戦い方を見てもわかると思うのですが、『うまな式魔法術』に頼らなくても十分強いんですよね。魔法技術はもちろん高いのですが、それ以上に格闘術はレベルがとても高い印象を受けました。前々から噂では聞いていたのですが、五番隊の精鋭と今回のような形式で戦っても圧倒的な力の差を見せつけてしまうんじゃないかって聞いたことがありますね。その話を聞いた時には単なる噂や都市伝説の類なのではないかと思っていたんですが、この入隊試験の解説をするようになってそれは噂でも都市伝説でもないという事を思い知らされましたね。特に、マーちゃん中尉との模擬戦は魔神皇を倒すことも出来るのではないかと思えるくらい凄い力のぶつかり合いでしたね」
二人の話を聞いていた多くの視聴者もその点は納得していた。実際に魔神皇を見たことがある人なんてほとんどいないのにもかかわらず、想像上の魔神皇を圧倒的な力でねじ伏せてしまうイザー二等兵とマーちゃん中尉の姿が簡単に思い浮かんでいたのだ。
「ずっと見つめあったままの二人ですが、これから先の展開はどうなると予想しますか?」
「順当にいけばイザー二等兵が圧倒すると思うのですが、今回はそうならないような予感もしていますね。ルーちゃんが全くリアクションを起こさないというのは何かを待っているという事なのか、それとも攻撃するのが怖いと思って何も出来ないのか。そのあたりはちょっと判断が難しいですね。結果的にイザー二等兵が勝つとは思うのですが、何か波乱があるかもしれませんね」
「それは何か理由があるのでしょうか。対戦相手のルーちゃんが何か秘策を持っている可能性があるという事でしょうか?」
解説の宇藤さんは手元の資料を再度確認していたが、そういった情報はやはりないようであった。そんな情報があれば先に話しているように思えるのだが、何も進展のない二人の事を考えるとこれくらいの時間稼ぎも必要になってくるだろう。そろそろ二人が持っている話題も尽きてしまうと思うので何か動きがあればいいなと思っていたところ、太陽の位置を全く無視するようにルーちゃんの影が伸びているのを発見してしまった解説の宇藤さんであった。
「もしかしたらですよ。ルーちゃんは今や最強と噂されるほどにまでなっているイザー二等兵に勝つために時間をかけていたのかもしれないです。二人の足元を見てください」
宇藤さんの言葉を聞いた全員が何があるのだろうと思いつつ、画面に映し出されている二人の足元に注目していた。そこにはルーちゃんからイザー二等兵の方へと伸びている影が映し出されていた。注目してみているからこそわかるくらいのスピードで影は伸びているのだが、注目していなければ気付くこともなかっただろう。それくらいゆっくりと影はイザー二等兵に近付いていたのだ。
その影がいったい何なのか。何の役割があってイザー二等兵のもとへと伸びているのか。何もわからない状況ではあるが、その影がイザー二等兵にとって良くないことが起こる前触れだという事は何となく理解はしているのであった。
「聞いた話によるとですね、イザー二等兵は今日の運勢が恐ろしいくらいに悪いそうです。どの番組の占いを見ても、新聞や雑誌に載ってる占いを見てみても、イザー二等兵を狙い撃ちにしてるのではないかと思えるくらいに悪いことしか書いていなかったそうです。最終的に栗宮院うまな中将もイザー二等兵の事を占ってみたらしいのですが、皆さんにお伝えできるような結果ではなかったという事ですので、その辺は察していただけると助かるとおっしゃってました」
「どの占いを見ても良くないことしか書いていないというのは、占いを信じていない人だったとしても恐ろしく感じてしまうかもしれないですね。そんな事を言っていると、いつの間にかルーちゃんの影がイザー二等兵の足首まで伸びていますよ」
「凄く不自然なことになってますよね。あの影ってもしかして、イザー二等兵をどうにかしちゃうタイプの武器って可能性もあると思いますよ」
「確かにそうかもしれないですね。私の気のせいかもしれないですけど、ルーちゃんの影は何らかの意思を持って行動しているともとれますね」
「そうですね。そうかもしれないですね。ですが、ここから先はちょっとばかし過激な映像になってしまうかもしれないので、小さなお子様やそういった表現が苦手な方はこの辺で映像を消すか見えない場所に移動してください」
「あの影って何か特別なものなのでしょうか?」
「特別と言いますか、このままだとイザー二等兵はここで最初の負けを記録してしまうかもしれないですね。そんな事にはならないとは思いますが、可能性はゼロではないと思います」
いつの間にかイザー二等兵のへそのあたりまで影は伸びているのだが、ソレ以外には何もおかしなところはないように思えた。
だが、映像を見ている人の中にはその影が何で出来ているのか理解しているものもいたようだ。そんな人たちに遅れること数秒、解説の宇崎さんはその影の正体に気付いてしまってイザー二等兵の負けを確信してしまったのだ。
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