第12話 会議の後

「あー終わった!」


 騎士学校の廊下内、窓の外を見ながら背伸びをするドンキホーテ。

 外の庭では鳥たちが羽ばたいている。

 だいぶ長引いた、対策会議も終わり、ちょうど目についた鳥たちのように羽を伸ばそうと、ドンキホーテが帰ろうとした時だ。


「待て半裸男」


 誰かに呼び止められた。

 ドンキホーテは振り返る、最初に目に映ったのは金髪に見紛えそうな艶を持った淡く薄い緑色の長髪。そして緑色の瞳。

 ドンキホーテよりも背が高く。きている服はシワひとつない。


 そのまま社交会にも行けそうな出立ちはレヴァンスの生真面目さの表れのようにも思えた。


「よう、サー・レヴァンス」


 ドンキホーテはにこりと笑いながらいう。


「サーなどと……嫌味か? 半裸」


「ちがうよ〜! あと半裸はやめろ」


「事実だ」


 そんな意味のないやりとりを続けたあと、ドンキホーテは唐突に切り出す。


「で? なんか用? レヴァンスさん?」


「……貴様あの話は本当か?」


「……会議の最後に言ったことなら本当だ」


 レヴァンスは眉を顰める、にわかには信じがたいだが信じなくては行けない。


「魔王か……」


 学校の開校が決定し、ひと段落ついた時、レヴァンスの目の前にいる男は爆弾のような事実を発言した。


─────────────


「俺が殺した魔物は一言、言いました。魔王様……と」


 その一言で教員の騎士達はひどくざわついた。魔王と言えば、約二千年前に勇者が討ち取ったと言われる世界を滅ぼしかけた神話上の人物に他ならない。


 勇者教の聖書に記されている伝説の邪神とまで言われる者の名がなぜ今になって出るのか。


 混乱がおさまらない、すると見かねて校長のジークは言った。


「皆、とりあえず落ち着いてくれ、今の問題は学校の生徒をどう守るかだ」


 校長は、周りを見渡しざわつきが一通り落ち着いたのを確認すると、では、と話を続けた。


「学校を閉鎖しないことを決めたわけだが、生徒の保護についてはレヴァンス君のいう通り厳重にしたい」


「そこで」とジークは言った。


「単純だが、教員の街中の巡回をはじめ、各寮に教員一名のところを三名に、そしてなるべく教員は学生とともに通学という形をとってもらう」


 ジークの保護案に誰も反対するものはいなかった。


「今のところ、その他の魔法結界の強化などは準備が遅れているが確実に実行する。他に案のある者、いるかね?」


 誰も手をあげない、そもそも今の緊急事態でこれ以上の対策を練れるほどの余裕は学校側にないことを誰もが理解していた。


「さて……今回のテロの首謀者はどう出るかわからない、魔王の件も含めて国に報告するが、皆警戒を怠らないよう



─────────────


 ジークはそう締め括った。

 しかし、魔物の存在を匂わせる魔物の発言に間違いなく会議に、参加していた騎士達の心にしこりを残していた。


 レヴァンスもその一人なのだろう。


「お前は、魔王の存在を仄めかすような事態があったのにも関わらず、学校の閉鎖を進言しない」


 こうして今、ドンキホーテに詰め寄っているのが何よりの証拠だった。レヴァンスは尚更、納得ができていないのだろう

 ドンキホーテは窓の外を見ながらいう。


「もう、遅いと思ったんだ」


「なに?」


「守るにはもう遅いんだ。おそらく敵は、待っていたんだと思う。ソール国が、いや国々が疲弊するのを……先の大戦の影響で、大きな傷をいろんな国が負った」


 だから、とドンキホーテは続ける。


「攻めるなら今なんだ、レヴァンス。敵が、なんなのかは知らないでも今のこの国々が疲弊、だが今も次の戦を想定して睨み合いの緊張が続く、今。外国へ注意が向かってる今、内部には目が届きにくい」


「……だからこそ、未知の脅威にも生き残れるほどの教育を生徒に施すと?」


「その通り、あとな──」


 ドンキホーテはレヴァンスの方に向き直った。


「学生が今、学ぶ権利をつまらない奴のせいで邪魔されたくないだろ?」


 ドンキホーテは笑う。その笑顔には屈託がなく、嘘など混じってはいない。

 この男は本当に学生の将来を慮っている、レヴァンスはそう実感した。


 だがそれでも──。


「生徒の危険が付き纏うのならば学校など必要ない」


「……」


「命があればこそ学べるのだ。その命が脅かされるような状況に彼らを……放り出したくなどない」


「そうかい」


 ドンキホーテの目を真っ直ぐ見つめたままレヴァンスはいう。


「だから、今でも学業などよりも優先するべきものがあるはずだ、そう思っている」


「……なあ、レヴァンス? 何が言いたいんだ?」


「どうやら私とお前は相容れないそう言っている」


「まだ学校閉鎖を諦めてないってことか?」


「そうだ」


 敵対することの宣言、レヴァンスはそれ言いにきたのだとドンキホーテは汲み取った。


 するとドンキホーテもそれに応えるようにジッ、とレヴァンスを見つめて歩み寄り、右手をレヴァンスの肩に置いた。


「何を」とレヴァンスが言った時だった。ドンキホーテは真顔で言う。


「アンタ……善い奴だな?」


「は?」


「なあアンタ、くそ真面目善い奴だろ?」


「うるさい」


「なあ、あだ名で呼んで良いか?」


「うるさい……」


「あ、じゃあこれからセンセって呼ぶぜ! どう? センセ?」


「うるさい!」


「冷たいこと言うなよ〜センセ〜! 俺、アンタみたいな奴、好きなんだよ〜!」


「私は嫌いだ」


「おいおいおい! 仲良くしようぜぇ!」


 騎士学校の昼の廊下、二人の成人男性の喧騒があたりの教室を騒つかせていた。

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