最期に笑う女

月井 忠

第1話 二つの死

 昨夜遅く、ひき逃げ事件が発生した。


 通報者はドンッという大きな音を聞いて、家の玄関から外に飛び出したという。

 急いでサンダルを履き、家の塀まで差し掛かったとき、一台の車が猛スピードで目の前を横切った。


 黒のセダン。


 ナンバーは覚えていないということだった。

 車が来た方向を振り返ると、暗い道路にはうつ伏せに倒れる人影があった。


 被害者は女性だった。


 すぐに病院に搬送されるが、すでに息はなく死亡が確認された。


 ここまでだったら、こうして捜査本部は立てられなかったかもしれない。

 だが、被害女性の持っていたバッグには、土のついた頭蓋骨が入っていた。


 その土は乾いておらず、たった今掘り出したばかりの骨に見えたという。


 検視官によると頭蓋骨は男性のもので、未成年とのことだった。


 簡単な事実を報告し終わると、刑事は着席する。

 早朝の会議室には長机がいくつも置かれ、それぞれに刑事たちが座り、耳を傾けている。


 出島がこの警察署に戻ってくるのは久しぶりだった。

 駆け出しのころは、この警察署で所轄の刑事として働き、今では県庁の捜査一課の刑事だ。


 捜査会議が終わると、それぞれの割り振りが決められ、順に刑事たちが立ち上がる。


「会津です。よろしくお願いします」

 若い男が頭を下げる。


 一緒に組むことになった相棒で、所轄の刑事だった。


「ああ、頼む」

 自分にもこんな時期があったなと懐かしく思いつつ、出島は会津を連れて会議室を後にした。

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