第3話 ざまぁ

 テーゼがメリアーヌとアレクへの復讐計画を思いついてから、数日。


 貴族主催の仮面舞踏会に足を運んだテーゼは、身なりのいい金髪の青年に声をかけた。


「ご機嫌麗しゅう。?」


 艶やかな濃紺のドレスに身を包んだ小柄な令嬢に、青年は端正な笑みを返す。


「おっと、ここは仮面舞踏会。身分のことを口にするのは無粋ですよ、レディ」


 あれから調べて知ったんだ。

 アレクはもとよりこの仮面舞踏会の常連な好色男。

 今はメリアーヌにお熱だが、定期的に開催されるこの舞踏会には今でも女漁りに来ているのだと。


 その恋愛対象は、女になったテーゼも含まれるらしいと、町中で目を合わせた一瞬で悟った。あの目は、明らかに僕に惹かれていた眼差しだった。まったく、どれだけ守備範囲広いんだよ。呆れてしまう。


「では、のことも内密に……」


 くすり、と微笑むと、アレクは機嫌良さそうに僕の手を取ってワルツを踊りだす。

 僕も、エリスに習ったステップで華麗にドレスの裾を舞わせた。


 何曲か一緒に踊って、お酒を口にして、談笑をして。

 ここからは色男のお手並み拝見といこうか。


 アレクは慣れた手つきで僕の腰に手を回すと、「少し外に出ましょうか」と言って中庭の薔薇園を案内し、離れの棟にある一室に僕を通した。


(ふーん……ここがヤり部屋か)


 部屋に入ると仮面を外し、柔らかく微笑む憎き騎士。

 今の僕は女なので力で組伏されれば終わりだが――

 今日終わるのはお前の下半身だよ、アレク。


 僕は「少し喉が渇きました」と言って少量の薬を口に含み、キスをねだるフリをしてアレクの口に吐き捨ててやった。


 びちゃ、と謎の液体がアレクの口元から胸元にかけてを伝う。


「なっ――! なんと下品な……!」


「すいませんねぇ、こちとら平民あがりの成り上がり勇者なもんで。お貴族様の夜のお作法とは無縁なんですわ。まぁ、今はあんたも見惚れるようなレディに様変わりみたいですけれど! あはは!!」


「くっ……なんだ、この液体は。甘苦く……くっ、身体が、痛い……!」


「今日であんたも、と同族だよ間抜けな色男!!」


 床にうずくまるアレクの身体はみるみる縮み、しばらくすると、愛らしい金髪碧眼の少女が男物の礼装に身を包んでいた。


「な――! 私の身体が、女に……!?」


「あはは! な~んてお可愛い姿なんでしょうねぇ! !」


 そうして僕は、アレクの襟ぐりを掴んで囁いた。


「そんな姿じゃあ、騎士職はお役御免。姫様の寵愛も受けられないでしょうねぇ? まぁでも、あんた顔は良いから。床に這いつくばって許しを請うなら、僕のハーレムに加えてやらないこともないですよ?」


「は……れむ? 貴様、何を言って――!」


「女の子同士でスる方が、存外気持ちいいもんですよ、って話です。あはは! その気になったら僕の城の門を叩いてくださいねぇ! 僕は不義を働いた元婚約者を許しちゃうような心の広い勇者ですから!」


 そう言って閉じられた扉越しに、絶望の眼差しが突き刺さる。


 ――下準備はこれで完了だ。


 あとは、メリアーヌの出方を待つだけだな。

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